テストで酷い点数を取ったときも、おねしょをしたときも、先生に怒られたときも。わんわん泣いてはよく周りを困らせたものだ。 それが三年の頃、学園に迷いこんできて可愛がっていた犬が誤って池に落ち、溺死してしまった。 それを見付けたとき、伊作は泣かなかった。他のやつらはバカみたいに泣いているくせに、泣き虫のそいつだけが怖いくらいに静かだったのだ。 そいつのための小さな墓を、眉一つ動かさずに淡々と作る様は少し不気味に見えた。 それから更に三年経ってもうすぐ卒業という時期になるまで、あの日から伊作の涙を見ることはなかった。 就職先は皆バラバラでもう会えなくなってしまうだろう前にと、何故泣かなくなったのか聞けば、眉を八の字にして困ったように笑った。 「皆より少しだけ早く大人になったからだよ」 当時、何を言っているのか全く解らなかったが、今なら理解できる。 握っていた鉄双節棍にぐっと力を入れる。目の前で血を流しながら倒れている伊作に、涙が出ることはなかった。 成る程、大人になるとはこういうことか。 |