ひゅっ、ひゅっ、と不思議な音が喉からでてくる。ひゅっ、ひゅっ。 ついでに足にも腕にも力が入らなくて、砂利の上を体をうねらすようにして、棒切れみたいな手足を必死に動かして前に進む。 泥だけじゃなくて赤い液体までもが身体中について気持ち悪い。冷たいものもまだ生暖かいものもある。僕からあふれでる血はまだ温かかった。 いろんな障害物にぶつかりながらようやく会えた彼に、今まで肺に溜まっていた息を吐き出す。 よかった、また会えてよかった。 殆ど空気の言葉を吐き出して空っぽの胃から胃液が溢れた。目からも鼻からもボロボロ水がこぼれてくる。 声にならない言葉で、彼の名前をひたすら呼び続ける。雑渡さん、雑渡さん。 彼の体は石みたいに冷たかった。 胃の中のものを全て便器に吐き出した。もう何も吐き出すものがなくなるくらい全部吐いて吐きだして、顔から出るもの全部を流した。 頭がぐわんぐわん揺れて、石でも飲まされたんじゃないかって疑いたくなるような腹のあたりに感じる重たい違和感。めんたまなんか今にも飛び出しそうだ。 舌を出してぜえぜえ喘いだあと水で口をすすいで買い置きしていたヨーグルトを食べた。賞味期限は昨日までだからまだ大丈夫。 そのあとに薬を飲んで、胃液の匂いを消臭剤で誤魔化した部屋でようやく眠りにつく。 いつからだなんて忘れたけど、唐突におかしな夢を見るようになった。 人がたくさん倒れている戦場みたいなところで両手両足怪我して瀕死状態なのに、無理して地面を這って回って人を捜す夢。でも、その人を見付けたと思ったらグロテスクな死に様で、いつもそこで目を覚ます。 起きたらまず胃の中にあるものを全部ひっくり返して落ち着いたら薬を飲んで寝る。 あんなおぞましい夢見たくないから寝るのは怖い。それからだ。強烈な睡眠薬を服用するようになったのは。 これがないと寝れなくなってしまった。 掛け布団を頭からすっぽりかぶって体を丸める。早く睡魔よこいと一心に願った。 あの夢を見たあとはいつも酷い倦怠感に襲われるから、早く夢の中に逃げてしまいたい。 寒くないのにガタガタ震える体を抱き締めて、すがりつくように口ずさんだ名前は僕の知らない人だった。 |