卒業を間近に控え、卒業課題や就職のための論文だの何だのをしていたせいで、最近の睡眠時間はないに等しかった。 それでも六年生たるもの下級生に恥ずべき姿は見せられないと、普段通りに振る舞っていたが、級友の目は誤魔化せなかったらしい。 険しい顔をして布団に無理矢理寝かせたあと、甲斐甲斐しく傍で俺の面倒をみている。なにか欲しいものはあるか。いいから、取り敢えず寝ろと。 自分だってやらなければならないことは山のようにあるはずだ。 寝ているから課題をやれと言えば、そんなもの終わったと言う。私はお前と違って優秀だからな。 聞きあきた言葉に適当に返事して、それじゃあ一刻したら起こしてくれと言えば額を叩かれた。それしきの睡眠時間で体が休まるか。今のお前の仕事は休むことだ。寝ろ。 いつになく真剣な顔で咎められ、仕方なく掛布団を頭からかぶる。 余程疲れていたらしく、睡魔は簡単に襲ってきた。 目が覚めたとき、陽は完全に落ちて辺りはシンとしていた。 久しぶりの睡眠に気分はいいものの、それでも完全に回復したわけではない。 痛む額を押さえながら、布団から出る。蝋燭を灯して机に向かう仙蔵の隣に、音をたてないよう注意して歩み寄った。 戦術やら忍術やらの蔵書を山積みにし、筆をもったまま首が上下に揺れている。よくよく見れば美しく整った顔にもうっすらと隈があり、声を押し殺して笑った。 無理のしすぎだ。小さく呟き、せっかく書いた課題に余計な墨がつかないよう筆を取り上げる。 膝の裏と首の後ろに腕を回し、ゆっくり抱えあげた。小さく揺れたものの起きる気配がなく、胸を撫で下ろす。 今まで自分が寝ていた布団に横たわらせ、上から布団を掛けてやった。 以前より傷んだ気がする髪を撫で、頬を撫でる。 無理のしすぎだバカタレ。当然のように返事はない。 積み上げられた蔵書のなかには俺の課題に使う戦法が書かれたものもあり、それらは別のところにわけて重ねられていた。 きっと一人でうんうん唸っていた俺のために、わざわざ図書室まで行って持ってきてくれたのだろう。 今の時期は無駄な移動時間さえ惜しいというのに、何をしているんだと笑わずにいられなかった。 「ありがとな」 目の下に唇を当て、布団を首元まで引き寄せる。 さあ、あと一踏ん張りだと背筋を伸ばす。障子の僅かな隙間から風が吹き込み、蝋燭の灯りがゆらめいた。 |