昼の忍術学園は、下級生の騒ぎ声で賑やかな喧騒に包まれていた。
医務室もまた小さな傷を作って訪れる生徒の姿が多く、ようやく一息をつけるようになったのは陽が傾く少し前だった。
少なくなった薬の在庫を確認していた乱太郎はふと顔を上げて、委員長である伊作の姿を捉えた。
先輩、と自身を呼ぶ声に包帯を巻いていた手を止める。


「どうしたんだい乱太郎」

「いえ、そういえば立花先輩が医務室にきたことがないなと思いまして。何か理由があるんですか?」


上級生が医務室を訪れることは多くないが、実技や実習を行っていると怪我をすることも多々ある。
六年生とて日に何度かは医務室に来るというのに、立花仙蔵の姿を見たことが一度もないのだ。
余程優秀なのだろうかと首を傾げれば、伊作のおかしそうな笑い声が室内に響く。
何事かと目を丸くする乱太郎に、目尻の涙をぬぐいながらごめんごめんと謝った。


「仙蔵は確かに優秀だけど、火薬を扱うしよく怪我をするんだ。それでも大層僕が嫌いらしくて、自分で治療してここには来たがらないんだよ」

「失礼ですが、お二人は仲が悪くいらっしゃるのですか?」

「うーん、どちらかというとそうなるのかな。一方的にだけど」


尚も不思議そうにする乱太郎の頭を撫でてやる。癖のついた髪はどことなく、自分のものに似ていた。


「最初はね、きちんと愛し合っていたんだけど僕が嫌われることをしてしまったんだ。あれは自尊心が馬鹿に強いから、どうにも無理に捩じ伏せられるのが酷く気に入らないらしい。それも一度二度の話ではないから、ついには嫌われてしまったよ」

「先輩……立花先輩に謝りましたか?」

「僕は何も悪いことはしてないよ」


何でもないことのように言ってのけた伊作に、呆れて口をきけなくなる。
彼のこのおかしなところからくる妙な自信は、悪癖とでも言えるものであった。
謝らないとダメですよ。それだけ言い残して医務室を出る。きっと奥にある保管室に、薬の在庫を取りにいったのだろう。
すぐに見えなくなった背中に、だって仕方ないじゃないかと小さく呟いた。
六年間思い続けて、ようやく手に入れたんだもん。我慢なんてできるわけがない。





 

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テーマ「人外ファンタジー」
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