何千年という生を生き、数多の人間もとい亡者達を見てきた。
なかにはそれなりの容貌をしたものもいたし、余程珍しい嗜好の持ち主なのか口説かれたことも数回。
それでも一度も色恋に現をぬかしたことが無かったのが、鬼灯にとって自慢の一つでもあった。





蟻地獄






「それなのに、よりにもよって何であんなやつに……」


物で溢れかえった雑多な自室に、悲痛な呻き声が響く。
朝起きたままにしていたせいで皺が寄っている布団に腰掛け、重たい溜め息を吐き出した。
根っこの方から馬があわず、一切交わることの無いような平行線。寧ろお互いに外向きに向いているような直線状態であり、仲が悪いとか性格が合わないとか最早そんなレベルではない険悪さ。はっきり言って一緒にいないほうが幸せになれる。
名を白澤というあの獣とは、それほどに反りが合わないのだ。
だというのに酷い量の仕事を終わらせた今でさえ、こうして彼のことばかり考えてしまう自分に呆れ返るばかりであった。
白澤に好意を寄せていると気づいたのは、つい三日前のことである。きっかけはなんでもない。
ベタな少女漫画のようにピンチであるとき颯爽と駆けつけて助けてくれただとか、思わぬライバルの出現にようやっと自分の気持ちを自覚したとかではないのだ。
ただ、書類に目を通していたとき、何の突拍子も無く自分によく似た彼を好きであると気づいてしまったのだ。
何の前触れも無く好意を自覚した鬼灯はその思いを否定するわけではなく、当の本人に思いを告げるのでもなく、どうすれば彼を嫌いになれるかとそればかりを考えるようになった。
気がつけばいつも白澤のことを考えており、目の前に本人がおれば昔に捨てたはずの苦しいほどの動悸に苛まれる。
このままでは仕事に支障が出ると考えた末が、思いを無かったことにすることであった。
そうしていつもより多くの仕事をこなしてはみるものの、少しでも時間ができれば憎たらしいあの顔が浮かんでくる。おかげで鏡を見ることさえできなくなっていた。
そういえばと、何故自分はあんなやつを好きになったのだろうか。先にも言ったように相性は最悪である。好きなところを述べてみろと言われてもそうは簡単にいかず、きっと片手の指で足りてしまうだろう。ならば嫌いなところはと言われれば、足の指を使ったって足りやしない。
つくづく何故だどうしてだと疑問を持たずにはいられなかった。
それでも、この思いに嘘は無いのだ。厄介なものだと、仰向けに倒れ枕を抱えた。
どうやらこの蟻地獄から抜け出すことはできないらしい。





 

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