大の好物はカステラである。南蛮からのお土産に学園長がもらってくるそれを、委員会のときに皆で食べるのが好きであった。
皆の目を盗んでこっそり上から黒餡蜜をかけて食べるのがお気に入りで、うんと甘くなったカステラを夜中に一人で完食することもしばしばあった。
そういうときは決まって知らぬ存じぬを突き通せば、犯人探しに乗り気な鉢屋を庄左エ門が宥め、皆で街に新しく茶菓子を買いに行くか学園長に泣きに入るかのどちらかだから、いつも澄ました顔で喧騒に加わっている。後になって考えれば、下らない茶番のようであった。
ある日の委員会中、その日の茶菓子は羊羮であった。珍しく甘葛ではなく砂糖が使われたもので、カステラよりはよっぽど貴重である。
それ故に控えめな甘さが好まれているのだが、如何せん自分の舌には少々糖分が足りなかった。
それでもころころ笑いながら羊羮を一口に切って口に運び、彦四郎からお茶をもらって庄左エ門の愚痴を聞き鉢屋を茶化し、委員会もお開きになる頃には茶菓子もお茶もなくなっていた。
腹もふくれ満足したことにはしたのだが、まだ物足りなくもある。
このまま町に降りて馴染みの甘味処に行こうかとも思案するが、そうするにはもう遅い時間だ。
皆が席を立ち部屋から出ていくその様子を、口許にのっぺりした笑みを浮かべながら眺めていた。最後に鉢屋がこちらを振り返り、帰らないのかと問う。
足が痺れて立てないのだと答えれば、呆れたように俺の隣に座った。歩けるようになるまで待ってやるとぶっきらぼうに言われ、思わず笑みが一つ浮かぶ。


「羊羮好きじゃなかったのか?」


ふいに思い出したように問うた鉢屋に首を傾げれば、あんまり食べていなかっただろうと返ってきた言葉。
続けていつもは私の分も食べるだろうと嫌みを含んだ物言いに、頬を緩ませる。


「俺のこと気にかけるほど好きなの?」

「ほざけ」


茶化すように放った言葉は簡単にあしらわれ、頬を膨らませる。
可愛くないぞと頬をつつかれた。鉢屋は可愛いよね。言った言葉に目を丸くする。
すぐに顔をしかめて、何を言っているんだと一笑に付された。
その態度があんまりにも癪に障ったから、鉢屋の腕を引き床に押し倒す。作り物の髪が若草を彩るその真ん中で、赤く染まった頬はとても魅力的だった。


「足、痺れてるんじゃなかったのかよ」

「ああ、あれね嘘。一人で残って明日の茶菓子を探そうと思ってたのに、鉢屋も残るんだもん。一瞬焦ったよ」

「このっ…!最低だな!」

「最低で結構」


首筋に顔を埋め舌を這わす。下から上がったのは素っ頓狂な声で、色気もクソもなかった。


「可愛くないなあ…」

「可愛くなくて結構!いいから早くそこをどけ!」

「そんなに可愛くない口はこうしちゃうぞ」

「やめ……ん!……ふっ、ぁう」


唇に噛みついて舌を絡めとり、口内を蹂躙する。
口の端からこぼれた唾液も、苦しそうに息をする様も、頬を伝う涙さえどれも愛しくてたまらない。
背中に腕を回して抱き締めれば、力がない腕で背中を叩かれた。


「鉢屋、明日一緒に茶屋に行こう。美味しい南蛮菓子の店があるんだ」

「わかった…から離せ!馬鹿力なんだよお前は!」


胸を押されて無理矢理引き剥がされる。
まだ潤んでいる目で睨まれるが、その様はとても扇情的でもう一度唇を重ねてしまったのも無理のないことだろう。
鉢屋に黒餡蜜をかけて食べたら大層美味しかろうと考えたのは、当の本人が二度目の絶頂を迎えているときだった。





そういえば鉢屋の顔作り物だから赤くならないじゃんと気づいたときには気力が尽きていた_(:3」∠)_

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