嬉々としてそれと滝夜叉丸パペットで遊んでいる小平太の姿は、大きな子どもという表現に違和感を感じさせない。 口許に呆れたような笑みを貼り付け、滝夜叉丸は裁縫箱に使ったばかりの針や糸を直していった。 これというのも今朝急に自室を訪れた小平太に、昨晩仙蔵に聞かされたらしい妖怪の話を興奮気味に語られ、終いには私も妖怪になりたいと言われたのが原因だ。 鬼やら河童に化け狐。ぬらりひょんまで名前をあげて、その数実に数十。 特に気に入ったらしい西洋の妖になりたいと騒ぎだした彼に、幾ら無理だと説いてもうんとは言わなかった。こうなったらこの子どもを宥めることができないのは、長い付き合いの中で承知の上である。 そうしてうんうん頭を悩ませ、作ってやった妖怪パペットに大層ご機嫌になった小平太に自然と失笑がこぼれてしまうのも、致し方ないことだろう。 さあ、これで満足したでしょう。委員会に戻りましょう。皆待っていますよ。 後輩を長時間放っているため慌てて腰をあげる。日が沈むまではまだ時間があるから、裏裏山までなら走り込みもできるだろう。 当の委員長よりもよっぽどそれらしいことを思案しながら裁縫箱を箪笥に戻し振り返れば、ちゅっと唇に何かが触れた。にこにこ笑んでいる七松小平太の妖怪さんと滝夜叉丸の唇が触れあっている。 奪っちゃった。楽しそうに笑う小平太に腰がくだける思いであった。瞬間、顔に熱が集まり声にならない言葉が喉からせりあがってくる。 妖怪は大変強いらしい。人間離れした力に、驚異的な肉体。そんなものに何故なりたいのかと呆れながら問えば、彼は何てことない風に言ってのけた。 「強かったら滝を私のものにできるだろう?」 ずるずると床にへたりこみ、赤くなった顔を見られないようにと手で覆い隠す。不思議そうに自分を呼ぶ声に、返事をすることもできなかった。 ああ、もう。既に私はあなたのものであると叫べたらどれだけ楽なことであろうか。 |