こら、と頭上から声が聞こえたかと思えばぽんっと優しすぎる頭の衝撃に閉じていた瞼をゆっくりと開く。そうすれば困ったような表情の一人の男が立っていた。実際、本当はこの目の前の人が男なのか女なのか分からなかった自分がいた。だが、すぐさま着ている男子用の制服が目に入り"嗚呼、男なのか"と理解する。

「授業放って呑気にお昼寝?白雲くん」


にこり、と悪戯が成功した子供が笑うように笑みを浮かべた男。ふわりと風に漂う緑色をした髪にチョコレート色をした瞳が見え隠れする。不意にも綺麗だな、なんて思ってしまった自分だが次の瞬間慌てて心中にあるその思いを奥底に隠し込む。


「……」

「あ、先輩を無視する気?」

酷いなあ、と困ったように笑う男に何故俺の名前を知っていたのか、聞きたくなってゆっくりと口を開いてみせる。


「…なんで、俺の名前を」

「サボリ魔の白雲蓮、知ってるよ」

「…サボリ、魔…」

「俺は風丸律禾、まあ一応宜しくしとこうかな?」


宜しくね、白雲くん?その言葉に声に少しだけ顔が熱くなるのを感じられ、素早く顔を背ければ後ろからあれ?っと困った声が聞こえた。

「…先輩の俺を無視?」

「…先輩、?」

「そう、先輩」

先輩、と言う言葉に顔を戻せば笑みを浮かべながら返される。先輩、なのか…と己の中で納得していればぽん、と頭を叩かれる。突然のことに唖然とすることしか無かった俺に面白かったのか先輩はくすりと笑う。その姿が何故かとても、綺麗で、


「…風丸、先輩」

「名前で良いよ、」

「律禾先輩、」

「ん、なに?」

止まる言葉に何故かなかなか言い出せない俺、そんな俺に対して何も言わずにただ待ってくれる律禾先輩からは凄く大人なものが感じられた。自分なんかとはまるで釣り合わないようなそんな感じがする。この人はなんと言えば良いのだろうか…言葉では言い表せないそんなようなものがある。ごくり、と生唾を飲み込んで俺らしくもなく緊張が襲う。



「…先輩もサボリですか?」


唐突に出た言葉はあまりにも情けなく俺は自身を恨んだ。俺の質問に拍子抜けしたような先輩だったが直ぐにくすくすと笑い出して、"そうだね、一緒だよ"と口を開いたのだ。


「…そう、ですか」


何故、こんなものを聞いたのか分からない自分ではなかった。立ち上がった先輩に少しでも動揺した時点で全てが分かりきっていたことで、伸ばしそうになった腕を必死に止めた。行って欲しくないと願ってしまったのだ。理由は分からなかった。いや、もしかすると分かりたくないのかもしれない。分かってしまえばきっと俺は歯止めが利かなくなるようなそんな感じが。



「すみません、つまらないことで。」

「大丈夫だよ、じゃあね」


サボったら駄目だぞーなんて笑いながら屋上から去っていってしまった先輩。開けていた瞼もすぐに閉じて小さくため息を吐き出した。そして馬鹿だな、と笑う。例えあの場で腕を伸ばしていようが何も掴めないと言うことは分かっていた。分かっていたのに、伸ばしてしまいそうになったこの腕。……馬鹿だ、とまた笑った。


掴めないと悟った瞬間無理にでも掴もうと思ってしまった

end
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