*央ちゃん宅のユウヤちゃんをお借りさせて頂いてます。








「何か、御用かしら?」

綺麗にされた研究所の一室でユウヤは振り返ることもなく、只一言ぽつりと言葉を口にした。全てが分かっているかのように発した言葉のあとにゆっくりと後ろに振り返る。その表情は何処か呆れていた。


「…あらら、見つかってしもた」


呆れた表情で振り返ったユウヤの目に写ったのは真っ白な出で立ちをし常に笑みを浮かべる男だった。"見つかってしまった"と残念そうに言うわけでもなく只、へらりと笑うだけだ。先ほど"見つかってしまった"と口にしながら実際は気配も何も消してなどなく逆に見つけて下さいと言っているかのような、そんなもので、


「……良く言うわ、」

一つため息を吐き出しながらユウヤは一言口を開いたかと思えば振り返っていた身体をまた前へと向ける。そしてもう一言、"何か、御用かしら?"と今度は強めに静かに問うたのだ。


「別にあらへんよ、ユウヤに会いに来たんやんか」

「そんな言葉は他に吐いてやったら良いんじゃないかしら」


「ほんま、釣れへんなァ…」


へらり、とまたしてもナトが笑えばユウヤは"当たり前よ"と口を開く。だがその言葉に返事をする訳でもなく、只ナトはユウヤのその小さな背を眺める。彼女はその若さで研究者を名乗り同時にあのアデクを打ち負かしたほどの強者、


「…なァ、ユウヤ」

「……何?」

いつの間にかユウヤとナトの距離はナトによって縮められており、ナトはユウヤが書いてある何らかの紙の上へゆっくりと手を置けば必然的にユウヤの手は止まる。知らぬ間に縮められていた距離に驚く様子を見せずに平常心を保っているかのように表情を変えないユウヤにナトは小さく笑みを浮かべた。


「…さっきの言葉、ほんまに嘘やと思う?」

「……さっき、」


ナトの言葉に今まで前を向いていた頭をゆっくりと斜め上へとユウヤが向ければへらり、と笑うナトが写る。さっきとはあの"会いに来た"と言う言葉なのか…嘘も何も、自分に会いに来るだけで此処へ訪れることなどない。加え息をするかの如く偽りを語る奴なのだから嘘だと思われてもそれはそれで、仕方のないことであって。


気付けばいつの間にか机の上に置かれたナトの手はそのユウヤのピンク色の髪にある、ナトの問い掛けに即言葉が出なかったユウヤだがゆっくりと口を開いた。


「…嘘ね、あなたが用も無しに私に会いに来るなんて考えられないもの」


"そうでしょう?"と薄笑いを浮かべたユウヤが問う。嘘、と言われるのは承知していたナトだがまさか問い掛けられるとは思っていなかった為か、暫くの沈黙が二人を包み込んだ。が、その沈黙も長くは続かず。



「さァ、どうやろうね?」

問い掛けに曖昧に返したナトはユウヤの髪を少し指で梳く。一方答えに納得いかないユウヤは大きな溜め息を吐き出す、最初からちゃんとした答えなど返ってくるはずもない、曖昧に返されるのがオチ…問うだけ無駄だったと。そんな考えに耽ったユウヤを横目にナトはへらりと笑う。



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