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(早瀬 誕生日話)




「…おーい、春」

はっ、とした時には遅く目の前には呆れたような、何とも言えない平子隊長の顔が見えた。普段は名字で呼ばれている筈が名前になっていたと言うことは、だいぶ呼ばれていんだろう。少しだけ申し訳ないような気持ちになって返事を返した。


「すみません、ぼーっとしてました。」

「…なんや、お前もそんなんなるんやなァ」

そう口を開く隊長は悉く俺に失礼かと思える。一応、俺だって元は人であってぼーっとしたくなる時もあれば現実逃避したくなる時もある。勿論、考え事や悩みだってある訳だ。


はあ、と隊長には分からないようにため息を吐き出し、未だに何かあるのか此方を見ている隊長に問えばその瞬間目の前に腕を突き出された。突然の出来事に声も出ず只、目の前に突き出されたものを見ることしか出来なかった。

「……受け取りィ」

「…は、?…あの、」

理由も何も言ってくれない中ですぐさま受け取るのもどうかと思ったが、ずいっと無理矢理手渡されるものに戸惑いながらも手にする。受け取ったと思えば直ぐに隊長は俺から背を向けその長い金色の髪を見せる。

一体何なんだろうか、手渡された綺麗な袋を開けてゆく。相変わらず隊長は背を向けたままで理由も何もかも、言葉すらも発さなかった。




「――――な、」

暫くの沈黙を破ったのはまさかの自分だった。開かれた袋の中からは綺麗な、色とりどりの鮮やかな色をした金平糖。即座に袋から隊長へと視線を変えれば何時の間にか此方を向いていた隊長と必然的に目が合う。

「…隊長、これ」

「誕生日なんやろ?」

「…あ、そう…ですけど」

「なっ、もしかして今まで忘れてたんか!?」

「……あー…まあ、」

曖昧な返事を返せば阿保か!と降ってくる言葉。そうか、誕生日なのかと改めて思う。今更、と言うか何年も何百年も繰り返してきたものであり年を取ったと言う実感もないものだから忘れてしまうのだ。それに欠片すらの重要性もまたない。祝うことすら、俺にとっては無駄に近くて。呆れたようにする隊長が分からなかった、けれども

「ありがとうございます」

この何百年と感じることが無かった暖かさが蘇った瞬間であって、それは俺にとって――……

















「…………夢、」

ゆっくりと覚醒してゆく頭を上げて、不意に真横にあった窓を見れば変わることの無い暗い空に気持ちが悪いほど白い砂漠。俺を現実に戻すのには充分なものだった。何も無い虚しくある虚圏、先ほどまで自分は夢を見ていたのかとはっきりとしてきた頭を回転させるがそれはどうも夢ではなく、俺の中にある薄れた記憶だった。


古い記憶、思い出す機会も無かった為か殆ど忘れていたものだったが途端、酷く懐かしさが込み上がる。がそれも直ぐに振り払うようにして立ち上がる。気分転換に散歩でもしてみようかとらしくもなく焦る自分に苦笑し、死覇装よりも断然として重い純白の服を靡かせて純白の廊下を歩けば見える同族、


「あれ、春が用もなく部屋から出るやなんて…」

珍しいこともあるもんやね、とへらりと笑う市丸。何を企んでいるのか、企んでいること自体は分かるが何かまでは流石に分からない。自分より高い市丸を睨めば大袈裟に怖い怖いと口にする。昔はあれだけ小さかったのに、なんて不意に思った。


「そういや、今日はおめでとうさん」

「…は、」

おめでとう?意味の分からない言葉だった。なのに俺はまるで息が止まったようなそんな感覚に陥る。きっとギンは知っていて口にしているのだ…嫌に笑みを浮かべた奴の顔が目に入った瞬間だった。


「今日、誕生日なんやろ?」

はっきりと聞こえたその言葉に、やはり俺は何も返すことが出来なかった。思い出されるのはそう、思い出したくもない苦渋なものだった。


end (20120917)

早瀬遅れたが誕生日おめでとう!日にちは誕生日にさせて貰ったよ。取りあえず誕生日も暗いと言うか何と言うか…早瀬はきっと誕生日や何かイベントごとに過去を思い出す訳であってその思い出が必然的にあの日に繋がる訳だからもう何も思い出したくない訳で…まず、過去も理由も話してない…。だけども早瀬は平子達を少なからず信用していて大切だったから、ね。エリカは早瀬の誕生花ですが花言葉は"孤独"です。

取りあえず早瀬誕生日おめでとう!






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