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(ナトキア)
「……さっむ!」
久しぶりの再会に自然と笑みが浮かんで、その扉を勢い良く開いたその時だった。外部と内部との余りにも違い過ぎる温度に俺は驚いて足を止める。と同時に声を上げるものの返ってくるものは何も無かった。
まるで、別世界と言っても過言ではないその一室に両手で自分を抱き締めて一歩、二歩…とゆっくりと脚を入れる。きょろきょろ、と周りを見渡すもののオーキド博士は見えない。代わりにソファーで偉そうに足を組みながら居座る奴だけが目に映る。
「…お前も帰ってたのか、」
ぽつり、と呟くかのように口にした筈の言葉なのに奴…ナトには聴こえていたらしく顔に置かれていた何らかの本を手に取り此方へと目線を向けた。その表情は相変わらず愉しそうに笑みを浮かべており、何時見てもやはり何を考えているのか判らない。
「…僕は暇潰しなんやけど、キアはどないしたん?」
「博士の顔見に来たんだよ」
「ふうん、」
変わらずの訛り方で話すナトに認めたくないがやはり懐かしい気持ちが溢れた。嫌々ながらも長年、此処で共に過ごしてきたんだから当たり前なんだけども。…良く考えれば本当に久しぶりだった。
「それより、一体冷房何度にしてるんだよ…寒い」
「寒いん?僕、まだ暑いわ」
「はあ?」
ぱたぱた、と大袈裟に自身を煽りながら俺に口を開く。一体何処が暑いと言うのか、奴の暑がりには本当に困ったものだなとため息を一つ吐き出す。リモコンが何処にあるのかも分からない中で温度を上げることはとても不可能であって、今は仕方なく諦めることにする。
「…最近、どうなんだよ」
「最近、?あれ、珍しいね。キアが僕にそないな事聞くやなんて」
なんか変なモノでも食べたん?とにやにや笑みを浮かべながら、失礼な言葉を口にして来た。殴ってやろうか…なんて思いながらも「違う!」と返せば俺の反応が面白かったのかくすくすと笑い出したナト、失礼な奴なのはやはり変わらないか。
「…キアはどうなん?」
「…俺、?」
へらり、と笑ってソファーから立ち上がったナトはまた伸びたんだろうか、身長は俺より遥かに高い。真っ白なその出で立ちは変わりなくふわりとした白髪はまるで綿菓子のようで、酷く整った顔は何か企んだような笑みを浮かべている。昔から苦手だった、深海のような瞳は俺の心を見透かしたように見えて。ふと、目を片方の眼帯へと向ける。きっと長く誰にも見せてはいないのだろう、硬く閉ざされたそれ。自分を含む少ない人のみが知る奴の過去、そう思えば俺は奴とはまた近い場所に立っているんだろうか。他人は知らないナト、今になっては何も話してはくれなくなったが。
「…キアは危なっかしいからなァ、心配したってるんやで?」
「ばっ、!誰が危なっかしいんだよ!子供扱いするな…」
へらへら、と笑いながら何時の間にか目の前に立つナトに頭を撫でられる。それはまるで子供のように、それを払いのけて口を開くものの耳を貸すことなんて奴にはない。苛立ちが増す中で不意に奴の姿が目の前から消えたかと思ったその瞬間、背中辺りから重みを感じた。
「…なっ、ナト!?」
「……」
首筋に吐息を感じられて、頭が真っ白になる。奴の腕であろう真っ白な血が通っているのかも疑わしきものは俺の肩に置かれていて。背中に感じる重みと微かな温もりに後ろから抱き締められていると言うことを理解する。それと同時にらしくなく熱くなる身体と焦りが俺の心を染めてゆく。
「…ど、したんだよ……」
今までにこんなことなんてなくて。出来るだけ心落ち着かせ問うが何も答えようとはしなかった。ただ、沈黙が俺達を包み込む。
「…ナト、?」
「…ごめんやで、」
――――突如、酷く悲しげな声が耳元に響いた。
end
弱々しいナトって感じもしたりするけどキアを殺したナトって感じもしたりする。
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