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(学パロ ナト)


「これ、受け取って!」

何度目の言葉なのか、分からないほど言われた言葉に正直、面倒になってくる。面倒になりながらも笑みを浮かべて受け取る僕も僕なんやけどね。

「ありがとーさん、家帰ったら、食べさせて貰うわァ」

「ナトくん…!」

へらり、とお得意とも言える笑みを浮かべる。そうすれば何が嬉しかったのか満面の笑みを浮かべる女の子、見事にみんな同じ表情するのが面白いんやけど。

僕が浮かべる笑みを疑う欠片すらもなく、純粋に嬉しそうに笑みを浮かべる子はそう少なくない。でも、それを疑っている子もまたおる。その疑いがまた僕からすれば楽しいことこの上なかった。



さっきの子は笑みを浮かべると友達の輪に戻り何やらきゃっきゃと騒いで楽しそうに会話をし出した。なんで、あないな風に群がって楽しそうなんやろうか、と疑問が浮かぶ。

ふ、と先ほど渡された女の子独特とも言える可愛らしいラッピングをされた箱に目をやる。それを鞄の中に突っ込み、見ればいつの間にか鞄は色とりどりの箱で鞄がいっぱいになっていた。


「………(…他のもん入れへん)」

目がちかちかとしそうなほどの色とりどりな箱からは微かにチョコレートの独特的な甘ったるい匂いが鼻を掠める。鞄に詰めた大量のチョコレートは正直、一人では食べきられへんくてどないしようかな、と考えを巡らせていればふ、と斜め前に座る人物が目に入った。


「…なァ、チェレン」

「…なに?」

教室は煩いほど騒がしいと言うのにチェレンは至って何時もと変わらず読書をしてる。僕が声を掛ければちらりと後ろを振り向いた、

「これ、一緒に食べてくれへんかなァ、思て」

そう言って鞄に入ってある箱を見せれば明らか嫌そうな表情を浮かべたのが分かる。やけど、此処で僕が引くと言うことになったらこの箱全ての中身を食べてしまわなあかんことになる。

とか、言うてるけど食べる気なんかさらさら無い僕。悪いなんか思わんし、僕が例えそれを捨てたとしてもその子は知らん訳で"美味しかった"と言葉を並べたら嬉しそうにする。僕も楽、その子も嬉しい。なら、それでええんよ、誰も悲しんでないそんな嘘。

「…君って人は、…どうしていつも、後先考えないのさ」

「…くれる言うんやから、貰わな損やろ?」

「…僕は嫌だよ、そんな他人が貰ったものなんて。それに貰ったんならちゃんと少しずつでも食べるべきだ、その子は君の為に丹誠込めて作ってくれたんだから」

かちゃり、とチェレンの癖でもある眼鏡を直しながら口にした長い言葉、丹誠込めて?僕のため?笑いが込み上げた。


「…じゃあ、捨てるわ」

「…なっ、」

「…僕のため、やなんて気持ち悪いだけやし余計食べたないわ」

「……君、正気?」

「ほんま失礼やなァ、正気やで?貰ったあとは僕の好き勝手なんやから」

そうやろ?とチェレンに問えば何も言って来なくなる。変わりに表情が歪んでゆくのがわかる。ああ、ほんまに気持ち悪い

「…なんて、冗談やで。ほら、半分食べてやァ」

「…なっ、ちょ…!」

ガサガサ、とチェレンの机に鞄に入っていた箱を半分くらい出して自分の席へと戻る。唖然と机を眺めているチェレンが面白くて笑みが零れた。


end

* * * *

最初はナトベルにしようとしていたのに何故か知らない間にこんなお話になってしまっていた。

チョコ貰う時は笑顔なナトは貰ったあと捨てると言うような人間性を疑うような奴だけど、それにはちゃんと理由があったり。

自分のためにって言うのが苦手と言うか本当にそれは自分のためなのか、疑うナトは人間不信だったり。






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