「…そんな、顔しないで」

ベルは苦しげな笑みを浮かべながら、そっと目の前のナトの頬をその細く痩せこけた手で優しく撫でた。だが、ナトの表情は曇るばかりでベルが望む彼女の表情は全くと言ってなかった。

ただ一定のリズムを刻み続ける多数の線が貼り巡らされた生命維持の器具は悲しく鳴り響く。


「ナト、魔力は大丈夫、なの?グリーフシードは、」

「…あるから、ベルは心配せんでもええよ」

「…そ、っか、」

良かった、と途切れ途切れに放たれた言葉にもう力など籠もっておらず、生命の終わりが近付いていることを悟らざる負えない。ベルの手を握り締めては大丈夫だ、と彼女にも自分にも言い聞かすようにした。気休めにしかならないことくらい、分かっていた。

それでも、と淡い期待を抱いてしまうのはまだ自分が心を捨て切れていないんだとナトは自身を嘲笑う。―――――もし、本当にそれがそうなのならば、






「……」


例え無駄だと分かっていたとしても、少しの可能性があるのならこんな魔力など安いもので。








「…ナト、?」


ベルが呼ぶ、彼女の姿は既に真っ白だった。何をするのか、分からなかったベルだが次の瞬間全てが分かったようで弱った彼女から出るとは思えない声を上げ、ナトの腕を力強く握った。突然の出来事にナトはびくりと肩を揺らす。


「…やめて、っ…」

「……なんで、」

乾いた声が部屋に響く。何をするのか、分かったベルはナトを止めようと必死に出ない声を振り絞り、縋るかのようにしてナトの動きを封じ込める。


「…僕が戻ったら、もしかしたら」


かたかた、と震えるナトの身体を抱き締める。もしかしたらと低い可能性に賭ける彼女を見たのは出逢って初めてで、余裕のない彼女もまた、初めてだった。

「…ナトが、戻っても私は治らないよ。ナトが時空を越えたら、未来の時間軸のナトは独りぼっちになるんだよ?そんなの辛いよ、辛いだけだよ」

「……僕は、」



「…行かないで、此処にいて、この時間軸に。私とナトが出逢ったこの世界に。」

ぎゅう、と抱き締める腕に力を込めたはずのベルの身体は力を失ったかのように倒れ込む。声を上げることもなくそれは全て、スローモーションのようにナトの眼へと写し出された。
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