「…ったく、なんで…」
ため息を何度吐いても気分は晴れることもなく、逆にもくもくと俺を曇らせてゆく。全ての発端な何なのか、なんて忘れてしまっていて。只一つ言いたいのは何で俺があいつと同室に居なきゃならないのかってことだ。
「…ああ、もう…訳分かんね…レッドさんも居ないし」
はあ、と大きなため息をもう一つ吐き出してゆっくりとソファーに腰をかける。テレビも観る気なんてさらさら無く何気にちらり、と此方からでも見えるベッドへと目を向けた。
部屋のど真ん中に置かれた普通のシングルかダブルか分からないようなベッドの上に頭まで布団を被り眠りに入っている人物。起きてくる気配など全くなく、只布団から見え隠れする真っ白な髪。
気を許し過ぎじゃないか、と思う。例え知り合いにせよあいつが無防備に眠りに入っているのだからそれはそれで珍しい話であって。普段、一体何を考えているのかも分からず何時もへらへらと笑みを浮かべているような奴だ。無防備な姿など自分にも見せたことはなかった。
「……」
ひょっとしたら、これは何かのチャンスかもしれない。何のチャンスかなんて分からないが奴の寝顔を拝むこと時点で何だか貴重な気がした。もしかしたら何か弱みを掴めるかもしれない。
――そうと決まれば、早速行動だ。と何やら悪戯を閃いた子供のように笑みを浮かべる。我ながら子供だな、なんて思いながらも足は自然と物音を立てずにベッドへと向かっていった。
物音を一切立てずに近付いていれば既にベッドとはものの数センチであって、ベッド上には布団にくるまっているナトの白髪が目に映る。必死に息を殺してゆっくり、ゆっくりとベッド前まで足を進めさて、どうして寝顔を拝もうかと笑みを浮かべた。
此処は普通にゆっくりと布団を剥がしてゆくか。と布団へと手をかけようとしたその瞬間だった。
「…なっ!」
「…なに、寝込みでも襲うつもりなん?」
ぱしり、と素早く布団にかけた手は何処から途もなく現れた白い手により阻まれた。驚いて声を上げれば布団から顔出したナトがへらりと笑みを浮かべて言葉を発した。何時から、起きていたのか?考える暇もなく慌てて掴まれた腕を振り払い距離を置く。
「何時から起きてたんだ、」
「何時、て言われてもなァ…キアが何回もため息してた頃から起きてたで?」
「…っ、起きてんなら言えよ!」
「…何で一々言わなあかんの?嗚呼、寝込み襲うため?」
「なっ、誰がお前みたいな白髪襲うか!馬鹿野郎!」
「…そない口悪かったら、男寄って来うへんよ?」
「大きなお世話だ!」
熱くなる顔を必死に抑えながら口を開く。必然的に大きくなる声にもナトは只へらりと笑うだけで、余計に腹が立つ。
「…っ、悪趣味な奴だな」
「お互い様で、」 にっこり
「っ…!ああ、もう!本当にお前って嫌な奴だな!」
おわれ