それは一瞬のことだった。セッターがふわりと上げたボール。確かに聞こえた。ボールが上がる軽い音。その先を目で追おうとした瞬間。
上へ上ろうとしていたはずのボールは突如俺に牙を剥いた。

ダァンッ

微動だにできなかった。気がつけば俺の斜め後ろへそれは突き刺さり、何事も無かったかのように後方へ転がる。
静寂がコートを支配した。
何だ今のは。セッターしか見えていなかった。見ていなかったのか。なぜ。どうして。
動揺を隠せないでいる俺たちを余所に、セッターの後ろから随分と悪辣な笑みを浮かべた4番が顔をだした。

「もしかして、球追えてなかったの?」

それはよかった。
澄んだ声を静かに響かせて、愉しそうに笑みを深めたこいつは確か、MBで二年の卯上朔と聞いた。事前情報がまるでなかった訳じゃない。数ヶ月前の公式試合の情報や他校から聞いた話から、対策はしていた。なのに、だ。
衝撃だった。二年でここまで仕上がっているのかと。あの細腕で、あの弾丸のようなスパイクを撃ち込んだのかと。自分より10cmは小さいであろうその背丈で、セッターを越え、ネット上を飛んだのかと。
にわかには信じ難い事実だった。
たった数ヶ月前の情報ですら奴はもう遅いと嘲笑うのか。

「もう一回するから。よく見てなよ」

涼しげな目元を厭らしく歪ませ、形のいい薄い唇には三日月のような弧を描かせ、妖艶に笑んだ彼はそれでも雀ヶ岡のエースではなかった。





(朔。)(だってあの人の反応が面白くって、つい)





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