昨日あの後私は紫原君の手を振り払い、一目散に征十郎の家から逃げ出した。
そのときの紫原君の顔は見ていないからいったいどんな表情をしていたのかわからないけど、私の軽率な行動で酷く傷つけてしまったということだけはわかる。
けれども、言い訳がましいかもしれないが告白(紛いなこと)をされるという人生初のビッグイベントの急来に私の頭はついて行かなかったのだ。

「流石に展開が早過ぎてついていけなかった。」

……です。
恐々そう言った(床に正座する)私の上から、椅子に座る征十郎の大きなため息が降ってきた。

「お前、自分がどれだけ最低なことをしたのか分かっているのか。」
「……重々。」
「それで、今お前のすべきことは?」
「紫原君に謝ってくる。」

わかっているのなら早く行け。
そう言うや否や征十郎は部屋から私を蹴り出した。なんて乱暴な。
でも今はそんなこと言っている場合じゃない。
私は急いで廊下に転がったかばんをひっ掴み、赤司家を飛び出した所で気がついた。

「あれ、紫原君の家って、どこ…?」








昨日の光景がなんども頭でフラッシュバックする。

『ごめんっ』
明らかに拒絶の色を宿した苗字ちんの目は確実に俺を捉え、こっちが謝罪するよりも早く握っていた手を振り払い一目散に部屋から飛び出していった。
当然俺はあの時彼女を捕まえることなんて簡単にできたけど、身体が動かなかったというよりも頭の中が真っ白で思考がそこまで至らなかった。

本当になんてことをしてしまったんだろう。

少しずつ少しずつ、彼女と仲良くなれてたから調子に乗っていたのかもしれない。
赤ちんの犬に向けられていた苗字ちんのあの優しい目を自分にも向けてほしかったからかもしれない。
でも、俺だけがいくら彼女を好きになったからといってその想いに比例して彼女も俺をどんどん好きになっていってくれているかっていったらそうじゃない。

「(明日からどーしよう……)」

幸いにも今日は日曜日だった。
だから名前ちんに会わないし、日課になったお菓子の交換もなかったけど、明日は通常通り学校で、当然なまえちんにも会う。
避けられたらどうしよう、名前呼んでも無視されたら…?
───そんなことがあったらきっと自分はもうやっていけない。
最初まだ全然彼女と喋ったことがないときに向けられていたあの目をつい思い出して、怖くなって俺は布団に潜り込んだ。

「(名前ちん……)」

姿が見えると見えなくなるまで目で追いかける、
目があうと心臓がありえないくらい跳ねる、
名前を呼ぼうと思うだけでどきどきする、
こんなにも名前ちんのことを好きなのに、好きで好きでたまらないのに、明日から彼女に避けられる日常がやってくるのだろうか。
また届かない一方通行な想いを抱えながらただ彼女を目で追う日々がくるのだろうか。

「(そんなん、やだし…)」

できることなら彼女に会ってもう一度話したい。
もう一回会って、謝って、また仲良くしてください、って 言いたい、言わなきゃ。

「(───……そっか、)」

俺が悪いことしたんだから、俺から謝らなきゃだめだ。
最初から諦めてなにもしないより、自分にできることをして失敗したらまたそこから自分できることを見つけて行動していけばいい、って前に赤ちんに言われたんだった。

自分に今できることしなきゃいけないことは、名前ちんに謝ること。

そう思いついたらなんだか途端に目の前がひらけた気がして、俺はおもむろに布団から起き上がった。

「(名前ちんに謝って、ダメって言われたらつれーけど、また仲良くできるように頑張ればいっか……)」

とろとろと寝間着からよそいきの服に着替えて、ついでにテーブルの横のお菓子籠の中身を紙袋にぶちまける。
一つずつ交換ね、って名前ちんに言われた時から、わかってたけどつい買ってしまっていたお菓子たちは自分ではどうしても食べる気にならなかった。
俺が持っていても多分ずっと、ただ賞味期限が切れるのを待つだけのものになってしまうし、名前ちんのためのだからなまえちんに食べてほしい。

「──……よし、」

頑張れ、俺。

やっと行動を起こそうと思い立った俺の頭の中はもうなまえちんに謝ることでいっぱいで、肝心なことをすっかり忘れてしまっていた。


「あれ、…名前ちんの家、俺知らなくね?」





(もしもし赤ちん?)
(───ああ、どうした?)
(名前ちんの家教えてほしーんだけど、)
(……ん?あいつまだ来てないのか)
(え?)
─ピンポーン─
(──ふ、丁度いいタイミングじゃないか)
(………ええ!?)





「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -