「紫原君早起きだね」
「ん、今日は早く起きた」
「そうなんだ。私もね、今日は征十郎と約束してたからさ、昨日なんて9時前に寝たよ!」
「赤ちん遅刻とかしたら怖いからねー」
「そーなの!ほんと、悪魔みたいな奴だよ!」

つい先日から謎のお菓子交換をする仲になって色々発見したことがある。
ついこの前までは紫原君と話するとか怖いし絶対にありえないって思ってたけどそれはただの私の勝手な思い込みだったみたいで、彼とは意外に話が合うし、楽しい。
もっと仲良くなれたらいいなあ、そう思ってまじまじと彼を見つめていたらそれに気づいた紫原君は少し視線を泳がせた。
そして最近は彼のこの行動にも慣れてきた。
少し前までは、紫原君はそんなに私と視線を交えたくないのかと思って気を使っていたけれどよく考えてみれば目も会わせたくない人に毎日わざわざお菓子を持ってくるだろうか?私はそんな面倒くさいことはしないし、むしろそんな人とは関わらないように避ける。と、いうことは、だ。
彼も私に少なからず「好意」というものをよせてくれているのではなかろうか。

「(もしかして……)」

まさかありえない選択肢が頭に浮かびかけて慌てて振り消した。流石にそれは自意識過剰というものだろう。
下を見れば私が悩んでることなんて露ほども知らないぺすが、正座する私の脚の狭い間で裏がえって構って欲しそうに腹を見せている。かわゆす。
さっきあげたささみチーズガムの威力は絶大だったらしく、完全な服従のポーズで仕舞いにはふさふさの尻尾を千切れんばかりに振っている。
征十郎がこれを見たら絶対怒るだろうなあ、そう思いながらぺすの柔らかいお腹を指先で擽ってやる。
ぺすはいいなあ、人の前に行ってコロンと転がるだけで可愛がってもらえて。
この甘えん坊め、ぺすの気持ちいいところばかりをわしゃわしゃとなでてやっていると、それを少し離れた所で見ていた紫原君が「ねぇ」と口をひらいた。

「あの、さ、苗字ちん」
「ん?」
「俺思ってたんだけど苗字ちんの私服かわいーね」
「え、」
「っ、」

突 然 何 を 言 い 出 す ん だ …!
てっきりぺすのことを話すものだと思っていた私は一瞬なにを言われたのかわからなくて、呆気にとられてしまった私の目の前で、ボッと音がするんじゃないかってくらい一気に顔を真っ赤にさせた紫原君に吊られてようやく言葉の意味を理解した私の顔も火がついたみたいに熱くなって焦った。いや、だって、そんな可愛い反応されても…!
「ごめん今のなし…、」真っ赤になった顔を覆うように両手で隠してしまった紫原君は蚊の鳴くような小さいこえでそう言った。

「え、あの、ありがと!」
「……………………。」
「さっきね、征十郎に気持ち悪いっていわれてたから余計嬉しい!」
「……ほんと?」
「うん、紫原君もかっこいいよ!私服!」

それに私紫原君の恰好好きだし。
いままでにないくらいばくばく鳴る心臓がすごいうるさい。いったいどうしちゃったの私の心臓!!
あんなお世辞みたいな言葉なんて聞き飽きるくらい聞いてきたのに紫原君に言われるとどうにもダメで、目の前で紫原君が訳わかんないところで赤くなるからつられてしまってるんだと思いたい。
って言うか、この前までほんとこわい人だと思ってたのに、このギャップは狡い。
これがもし計算だったらゆるさん。
恨めしく彼を見つめていたら不意にのばされた大きな手が私の手を攫っていってしまって、あ、と思う頃にはもう私の手は紫原君の胸板に押し付けられていた。

「っ、」

どっくんどっくん手のひらから伝わってくる紫原君の速くて大きな鼓動に思わず息をのむ。

「(なんで、こんな…速い、)」

恐る恐る見上げた彼はまるで熱に浮かされているかのように顔を辛そうに歪め、私の腕を強く掴んでいる手はじっとりと汗ばんでいた。
私を真っ直ぐ見つめる目はいつぞやの鋭く冷たいものではなくて、ぎらぎらと熱を持ったような…

「まだ駄目なのはわかってるけど、俺もー限界」

なにが、とは聞けなかった。
だって、彼の私を見る目つき、胸板に押し当てている手のひらから伝わる鼓動が、彼がどうしようもなく私のことが好きなのだと雄弁に語るから。
いくらなんでもここまでされたら流石に自覚する。


「(そうか、紫原君は……)」








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