今日は征十郎にお勉強を教えていただくという約束をしていた。(本当は征十郎が飼っているポメラニアンのぺすに会いたかったからっていうのがあるんだけど、)
だから私は今日に備えて前日から手土産の羊羹とぺす用にささみチーズガムを用意し、寝坊なんてあってはならないので昨日は夜9時前に就寝して、気後れするくらい立派な赤司さん宅にお邪魔しても恥ずかしくないように服にも気合いを入れてきた。
……だというのに!

「お前、気合い入れすぎて逆に気持ち悪いぞ」

珍しく出迎えてくれたと思ったら第一声がこれだよ!!
何となく誉められはしないだろうな、って思ってたけど「気持ち悪い」ってお前…!
ぎりぃ、と恨みを込めて征十郎をみあげたら彼も私のことをまだ見ていて、慌てて目をそらしたが奴は私が睨みつけているところをばっちりと見たらしく、顔を反らそうとした私の両頬を目にも留まらぬ速さでつまみ上げた

「ん?何だ?その反抗的な目は」
「いっ、いたたたたっ」
「何か言いたいことでもあったか?」
「なんでもないですごめんなさい調子のりすぎましたすいません!」
「………そうだろうな。」
「お、思い切りつねられた…!」

ぱっと両頬が自由になったとたん、床に崩れ落ちそうになる。もてる限りの握力を使ってひっぱりあげられたせいで絶対ほっぺのかわが伸びた。多分。ほんとうに容赦ない…
征十郎の辞書にはきっと「手加減」ていう言葉なんて存在してない。
まだじんじんと痛む頬を揉みほぐす私をどこか満足気な顔で見下ろしていた征十郎は不意に「そうだ、」と思い出したように話をきりだした。

「俺は今から駅まで行ってくるからお前は部屋で待ってろ」
「へ?なんで?」
「桃井たちも家に来るらしい」
「ええ?!…桃井さん、たちって他に誰が──」
「どうせ来たらわかるだろ。」

ぱたん、呆然と立ち尽くす私を置いて征十郎は行ってしまった。
信頼されていると言えばいいのか、扱いが適当だと言えばいいのか、多分後者だろうなあ、と思いつつ征十郎の部屋へ向かう。
昨日から桃井さんたちくるのわかってたら羊羹なんて買わなかったのに…

「ぺすー聞いてよ!お前のご主人がさー!」

「!!」

ぺすに今あったことを愚痴ってやろう。
そう思って勢いよく扉を開けたらそこに居た思いもしない人物に、私はとりあえず扉を閉めた。


(え、ちょ、どうして紫原君がここに!?)
(し、閉められた…)





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テーマ「人外ファンタジー」
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