昨日帰り道を共にしてわかったことは、紫原君はそんなに怖い人じゃないってことと、とりあえずでっかい子供だったということ。この二つだ。
いつもなら適当にあしらわれたり最悪無視される征十郎との会話も、紫原君がいることによってとても円滑になった気がした。というより、いつもなら返ってこない返事が返ってきて私が調子に乗って喋り倒してただけだった気もするけれど。でもそれだけの時間があっても結局、どうして最近毎日お菓子をくれるのかは彼に聞けなかった。
「苗字ちんおはよう」
「!! おはよ」
びっくりした…あれ、昨日は名前呼びだったのに。
声のする方を振り返ったらそこにはやっぱり紫原君がいて、昨日までとは打って変わって嬉しそうにはにかんでる。
今日の彼は朝から上機嫌らしい。
とても幸せそうなオーラを振りまいて、紫原君は自分の席には行かずに私の席の前に腰を下ろした。
紫原君の笑顔とオーラがとても眩しい。
「あの、今日もね苗字ちんに、お菓子持ってきたんだけど…」
「やったぁ」
「…………………。」
彼が朝一番にくれるものは何かわかっていながらも「お菓子」という単語に条件反射で、若干棒読みになった気もしたがそう返事したら紫原君はなぜか呆気にとられていて、どうしたのってきいたら何でもないって言って長い前髪で少し顔を隠してしまった。馴れ馴れしかったかな…
少しだけショックをうけた私の机に乱雑に散りばめられた色とりどりのなつかしい駄菓子にそんなことも忘れてついつい目を引かれ、見入ってしまう。
今日は駄菓子フルコースか…!
「…嬉しい?」
「うん、すごい嬉しい!」
どれもこれも私が昔大好きだったやつばっかりで、興奮のあまり(きっと普段友達にもみせたことないような)笑顔で顔を上げたら、少しだけ合わさった視線は彼の方からさりげなくそらされてしまった。あ、まただ。
二度目の失態に気が引き締ぼられる気がして、机に散らばる駄菓子の中から目に付いたのを一つだけ手にとって、とてもとても惜しかったが残りは紫原君の方へ押し戻した。
「あとはいらないから返すね。」
「……何で?」
それまでの雰囲気とは一転、とたんに表情がなくなった紫原君にわたしは思わずすくんだ。
前より距離が近い分、余計に、怖い。
「前から言おうとしてたんだけど、私こんなにいらないかなー…なんて」
「昨日まで貰ってくれてたのに、」
「あー…それは…」
紫原君が怖かったから断れなかったんだよ!
なんてまさかいえるわけもない私は彼の視線から逃げるように机に目を向けて、彼の手の紙袋に駄菓子を一つずつ戻しながらとんでもないことを口走った。
「これからは私も紫原君のために毎日一つだけお菓子選んで持ってくるからさ」
……嘘だろ?
(まさかお前がそんな殊勝なことを言うなんてな)(ええ、まあ自分でもびっくりですよ)