「あげる。」

私はこの人に餌付けでもされているのだろうか。
机の上に散らばった沢山の駄菓子から視線をあげると、好意なんて微塵も滲ませていない切れ長の眼が静かに私を見下ろしていた。

「………ありがとう」


最初はチョコレート一粒、次はまいう棒3本、その次はポテトチップス一袋…その後に貰ったものはよく覚えてない。とりあえず覚えてられないくらいの沢山のお菓子を、何を思ってか紫原君は最近毎日くれる。
そんな彼は私にとってただのクラスメートで、まともに話なんて一度もしたことがなかった私にお菓子を分ける(与えるともいう)という奇行に突然走ったのは、つい一週間と少し前くらいのことだった。
初めて彼からお菓子を貰ったときは素直に嬉しかったんだけど、日に日に増えていく量と無表情に上から見下ろしてくる高圧的な視線に私はそろそろ恐怖心しか湧かなくなってきていた。

「(いつか、食べられるんじゃあなかろうか…)」

お菓子で太らせて、いい具合に肥えたらそのままぱくん、…なーんて。机に散乱したお菓子をどうするか考えつつふと脳内を過ぎった不安に、紫原君ならあり得そうだと妙に腑に落ちた。
いや、あり得ないだろうけども。多分。






「…で、どうすればいいと思う?」

「どうもこうも、お前お菓子好きだろう。嬉しくないのか」

「知らない人にいきなり毎日お菓子を贈られて嬉しいわけないって。笑わないし見下ろしてくるしほんとあの人怖い」

なんて口では言いながら今朝紫原君からいただいたスナック菓子をもぐもぐ食べる私は意外と大丈夫かもしれない。赤司もそれが分かっているのか、特に興味もない様子で着替えている。しかし少しは考えてくれたっていいじゃないか。いくら一緒にいる時間が長いからっていったって私の扱いがぞんざいすぎる。

「ハッ、もしかして私…気づかないうちに賄賂を受け取って…!?」
「お前にそんなもの渡しても何のメリットもないだろう。行くぞ。」
「……だよねぇ。」

言い方がいささか酷い気がしたけど、確かに自分でも彼の役にたつことなんてできる気がしない。
紫原君なら何でも一人で出来ちゃいそうだし、例え一人じゃ出来ない事があったとしてもそれはきっと私には出来ないことだろうし、今私の隣にいる征十郎を頼った方が…

「そうか、間接的に賄賂を…!」
「まだそんなくだらないこと言ってるのか。それよりあれ、敦じゃないか?」
「紫原君…?」

ひぃ、既に帰ってしまったものだとばかり思っていた。暗くてよく見えないけど、あの大きなシルエットは紫原君に間違いなさそうだ。どうしてまだいるの…
どうするのかと思って隣の征十郎を見上げたら丁度彼も私を見下ろしていて、あごで私に「行け」としゃくってみせた。え、ちょ、どこに

「何をしているんだ愚図、早く行ってこい」
「え、いや、何で…」
「ん?なんだって?」
「くっ…」

すぅ、と鋭く細められた眼に怯んでしまった私は、大人しく引き下がった。昔から征十郎のあの眼にだけはどうにも抗えない。親にはどれだけでも反抗やらなんやらしてきたけど、そういえば私は彼の幼なじみとして共に過ごしてきてもう十数年になるけれど、一度もそんなことをした記憶がない。いつかしてみたいとも思うけど、私も自分の身が可愛いのでそんなことはしない。

「こんばんは、紫原君。今朝もお菓子くれてありがとう」
「名前、…ちん!」
「(ち、ちん…?)こんな寒いとこで誰か待ってるの?」
「ん、えと…あの…」
「ん?征十郎なら今帰るよ?私もおまけでついててもいいなら一緒に帰る?」
「え…いいの?」
「全然おっけー!」

うわぁぁあぁああ!なにわたし誘ってんの全然おっけーじゃないし気まずいだろ!……と、思ったんだけど、予想以上に紫原君が嬉しそうだったから、少しだけ誘ってよかったな。って思った。紫原君は誰か待っていたんじゃないかと少し気にもなったが。

「良いわけあるか」
「…ど、どうして!」
「赤ちん、俺は満足だから、」
「敦がそう言うなら俺は何も口出しはしないが…」
「一体全体なにが…!」







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