なに、あれ…なにあれなにあれなにあれ!
これ程までに自分の容姿を怨んだのは初めてだった
いつもと違う道を通って部室に行こうと思って、たまたま通ろうとした渡り廊下
なまえがそこで見たのは制服からユニフォームに着替えた千歳と、すらりとした体型の綺麗な女子が歩きながら楽しそうに話しているところ。
都合の良いことに彼らとは進行方向が一緒だったから気づかれてなかった。もちろん今は渡り廊下を通らずにいつもの道を歩いている
それに別に私は千歳の彼女やないし、私の片想いの勝手な嫉妬。
夕日に照らされて談笑しながら歩いていく大人っぽい2人はやけにオニアイで、頭に浮かぶのはあの光景ばっかり
「………………。」
彼女とは正反対の自分の容姿。身長も低くて童顔で、あんな華やかな雰囲気を纏ってなんてない。自分が千歳の隣に並んであんな風に歩いてもきっと釣り合わなさすぎる
それにあの子は千歳と同じクラスの子で、性格のすこぶる良いらしいという噂は普段からよく耳にしていたから余計に妬ましかった
みじめで悔しくてくやしくて悲しくて、でも泣くのは絶対に嫌だった
(最近、千歳と仲良くなってきて調子乗っとったバチ当たったんかな…)
視界が滲んだけど出来るだけ平静を装って、さっきと変わらない歩調で、放課後の誰もいない廊下を1人で歩く。
そんなときだった
「おーい名前ー!」
「!」
長い廊下を後ろから小走りで追いかけて来た謙也。
なんてタイミングの悪いあほや
その名前を呼ぼうとして声が詰まって喋れんくなった自分もあほ
駄目や、泣いてまう
「は、ちょ!おい!」
浪速のスピードスターに自分の全速力が敵わないのは誰が見ても明らかだし解っていたけど、なまえは謙也に背を向けて思い切り走った
そうせんと居れんかった
なんでか涙が止まらんもん
後ろは振り返らなくても足音が段々近くなってるのがわかる
「追いかけてこんといて!」
「はぁ!?つかお前泣いてんのか!?」
「来んなや!」
生徒玄関へ降りる階段を三段階飛ばしで飛び降りる
ただでさえ辛いのに全力疾走して余計につらいし、こんな不細工な自分を見られたくない、早く一人になりたいのに
「っ、おい!」
踊場で腕を引かれ、その力に敵わずなまえは立ち止まった
謙也の方は絶対に振り向かないまま
「放して、」
「嫌や」
「─んでや、はよ部活行きぃや」
「なんで泣いとるん」
「……コケた」
「そんなんいいからはよ言え」
謙也にもう片方の腕も捕まれて、向かい合わせにされる。本格的に逃げれんくなって、謙也は逃がす気もないようで
上手い言い訳が見つからないし、でてこない
代わりに溢れてくるのは涙ばっかりで、ぼたぼたぼたぼた床に落ちる落ちる
「〜〜〜〜っ、嫌や、もう嫌」
「なにが」
「謙也に泣いとるとこ見られた」
「どアホ」
「話したくないん、っ、わ、たし……っ」
自分の勝手な妄想、劣等感、嫉妬、今はそんなこと話したくなかった
別に、謙也の中の私の印象が悪くなるとか、汚い部分を見せたくないとかやなかった
話せるようになるまでただ時間が欲しかった。自分で自分を落ち着けたかった。
色々考えれば考える程に涙は止まらなくなって、
「……ったく、話せるようなったら絶対話せや、馬鹿」
とりあえず今はこうしとき
ぐ、と引き寄せられなまえは抵抗もせずにその胸に凭れる
(なんでこんな時ばっかかっこいいん)
「──っく…謙也のあほぉ〜〜!」
謙也の背中に手を回して、もう涙なのか鼻水なのかわからなくなったぐずぐずの顔をやけにあったかい胸にうずめた
「あ!鼻水付けんなや!」
「うっさい、私の鼻水でべっとべとにしたるわ!」
このとき私は、謙也が友達で本当によかったと心からそう思った
(「なんね、あれ……」)
(その始終を見られてるなんて思いもせずに、)