浴室を嘗めてはいけない。

例えば換気扇をつけ忘れただとか、ドアを開けるのを忘れただとか、そんなちょっとした当たり前を忘れただけで、次の日のそこはカビたちの住みよいホームへと早変わりしている。
それなのにこの部屋の主はシャワーをした後換気扇もつけずドアもあけず、更には練習後に学校の方でシャワーを済ませてくるから週三程度にしかここを使わない。ありえない。
あいつのせいでカビ臭くなったここを掃除してるのはいったい誰だと思ってるんだ全く!


「よしっ…!」


泡々のスポンジ片手に、同じく泡にまみれたなまえは満足そうに立ち上がった。

風呂に籠って何時間が経ったのやら。
あまりの不衛生さに、時間も気にせずつい掃除に夢中になってしまっていた。
おかげで随分綺麗になったし、最初充満していたあのカビ臭さは今はせっけんのいい匂いに満ちている。
あとは流すだけだから大して時間はかからないだろう。
でもどうせこの格好じゃ風呂場から出れないし、ちょうどさっき沸かしていた風呂も沸いたからこのまま先にお風呂を済ましちゃえばいい。
と、私は泡だらけのTシャツの裾を持ち上げた。


「え、脱ぐん?」


「っ!!」

反射的に叫び声をあげそうになる私の口を、いち早く察した翔一が大きな手で塞ぐ。

「っ、と危ないなぁ。お隣さんびっくりするやろ?」

「────っ」

まず私がびっくりしたわ!
口を塞がれているので何も言えずただ睨み付けることしかできない私にしれっとそう言った彼は、「このシチュエーションもえるな」とかなんとか訳のわからんことを言う。
ブラにスウェット姿の彼女の口ふさいで言う言葉はそれか。
というか、こいつ本当に気配なかった…。
そして足音も、更には玄関のドアを開けるとき絶対に鳴るガチャっていう音も鳴らなかった…

「お、風呂沸いとるやん。」

やったー、ほくほくと見るからにテンションがだだ上がった翔一は、口を塞がれたまま呆然と翔一の胸に収まる私と湯気のたつ風呂とを何故か見比べて少し唸った後、私の口を塞ぐ手の隙間を少しだけあけて顔を近づけてきた。
あ、キスされる。

「ン、む」

「久しぶりのちゅーやな」

「んん、ふ、んっ、」

「やーらかい」

「は、っや、んむ、や」

優しくついばむようなキス。
たまに隙をつかれて一瞬だけ舌を入れられる翔一のこのキスはすごく気持ちよくって、翻弄される私はいつもすぐ腰砕けになってしまう。
そしてこのキスの仕方はフラグだ。
でも今はこれからお風呂にはいらなきゃいけなくて、彼の思い通りにいかせたくなくていやいやと身をよじるんだけど
節張った彼の大きな手に顎を捕まれて、バスケで鍛えられた腕にぐっと強く腰を引き寄せられると私はもう抵抗なんて出来なくなってしまう。

「ん、んっ、ふ…はッ」

「もうぐずぐずやん」

掠れた声がどうしてかずくんずくんと腰に響く。
唇にかかる吐息にすら感じてしまう。
そうこうしているうちに段々と全身から力が抜けていくのがわかった。
必死に翔一の首にすがりつくようにして伸ばしていた腕も上げているのでさえ精一杯で、腰を支える翔一の手に力を吸いとられていくみたいに足の力もぬけてきて少しずつずるずると床にへたりこんでいってしまう。
それでも翔一は逃がしてくれなくて、私はあまりの気持ちよさに身体が奥から熱を持ってくるのがわかった。

「やっ、──しょ、…んぷ、やだぁ」

「あーああ…そんな可愛ええ反応するから離したくなくなってきてもたやん」

「はっ、ん、そんなの知らなっ、んんんっ」

もう待てないとでも言いたげに私の言葉を遮り、とどめを射すかのように容赦ない噛みつくような激しいキス。
熱くなった目からは泣きたくもないのに熱に浮かされて涙が零れ落ちてくる。

「敏感ちゅーんも困りもんやな」

「ふ、んぁ…」

ふり止まないキスの嵐の合間に眉を寄せて切なげにそう言われ、私に言ってるのに本当に困ってるのは翔一じゃないのかと、甘い痺れに何も考えられなくなってきた頭でなんとなく思った。





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