昔は、俺が、俺のできることをめいっぱいしてめいっぱい名前に大好きを伝えても、
俺のこのどうしようもないくらいに膨らんだ名前への気持ちはその半分も彼女に届いてないように感じて酷くもどかしかった。
今日は俺は朝早くから練習があって、やっと家についたころにはお昼の1時をとうに過ぎていた。
部屋の鍵を差し込んで回したらいつもある手応えがなくて、
まさかと思ってドアを開けたら玄関にはちっちゃい靴が俺の靴の間にちょこんと揃えてあった。
同時にふんわりと漂ってくる食欲のそそる匂いに俺は慌てて靴を脱ぎ捨てる。
「名前ーーっ!」
「ぅわあっ、おかえり敦」
可愛い花柄のエプロンをつけて、狭いキッチンでせっせとお昼ご飯を作っていた名前の後ろ姿に堪らなくなって
俺は担いでいたバッグをほっぽって勢いに任せて名前を抱き上げた。
名前からは柔軟剤の優しい香りがする。
「会いたかったー」
ってそのままくるくるまわれば、名前も嬉しそうに「私もー」って言って俺の肩に頭をのせて頬っぺたに軽くキスをしてくれる。
それが嬉しくて、ぽっかり空いていた俺の中の何かが満たされていくような気がしたけど
欲張りな俺はそんなんじゃ全然満足できなくて、名前をちゃんと抱え直して正面からキスを迫った。
「んんっ、」
「は……ふ、…」
久しぶりにしたキス。
舌をそっと滑り込ませて絡ませて、相変わらず名前はこれに馴れなくて、
でもたどたどしくだけど応えようとしてくれているのはわかる。
昔とは違って、言葉に出さなくてもなんとなく感じるようになった名前の行動一つ一つが、どうしようもなくいとおしかった。
「ふふっ、甘えたさんだね」
「んー、だって会いたかったんだもん」
至近距離で見つめあい、おでこをくっつけて笑いあう。
映画やドラマでブラウン管越しに見ていた、恋人や夫婦が幸せそうに抱き合いじゃれあうそんな風景がここにはあった。
「名前」
「ん?」
「大好き」
私も大好き。
また自然と近くなる唇同士。
でも、それを見計らったかのように噴き出した鍋に驚き俺を押し退けた名前に、その後俺は気分を損ねることとなった。
「拒否るとかまじあり得ねーし」
「鍋が噴き出したから、つい…ごめんね?」
「ぜってーやだ」
(まじあり得ねーし)(だからごめんってば、キスならまたすればいいじゃん)(あの時しないと駄目だったの!)