そういえば、敦と最後に連絡をとりあったのは何日前だろう。
部活で散々動き回り疲労した私の身体を優しく包んでくれる柔らかいソファーに寝そべり、ぼんやりする頭にふとそんな疑問が浮かんできた。
丁度握っていた携帯の受信ボックスを漁る。
ひー、ふー、みー、よー……あれ、5ってなんて言うんだっけ?
まあいっか…軽く計算しても、もう一週間くらい連絡をとりあってないことがわかった。
通話履歴を見ても敦の名前はずいぶん下に追いやられてしまっていた。
(もうそんなに…)
元々メールとか電話とかはいつも私からしていて、敦からのなんて本当に数回数えるくらいしかなかったから、
私の練習が長引き家に帰ってくるのがだいたい10時位が普通になってきた最近は同じく部活で忙しいだろう敦を気遣って連絡をしていなかったために今のような状況がある。
我ながら酷いなと思うけど、連絡しようと思わなかったわけじゃない。
部活の忙しさや疲労を知れば知るほど敦に電話をかけるのがはばかられてしまって(私が疲れていたっていうのもあるけど)、結局何もしないままずるずると一週間以上過ごしてしまっていた。
(敦から連絡してくれてもいーのに)
自分のことは棚上げしてつい出てしまった不満と同時に一瞬、「自然消滅」なんて嫌な言葉が頭をよぎる。
完全にその可能性を否定できないことが恐ろしい。
携帯を閉じ、そんな不安と不満とを一緒にジャージのポケットに突っ込んだ。
寂しいなぁ。
敦の間延びした鼻声のようなあの声が聞きたい。
それで「名前」って優しく静かに私の名前を呼んで、力任せに息もできないくらい容赦なく抱き締めてほしい。
今はその痛みすら恋しかった。
──ブブブ──ブブブ
「んー………」
一番しあわせで楽しかった頃を思い出して一人静かに涙ぐんでいると、ぶるぶると振動しだしたジャージのポケット。
メールかな。
電話だったら出たくないなぁ。
そう思いながらのろのろと携帯をとりだせばそこに表示された「敦」という名前にびっくりして、溜まっていた涙が一粒ぽろんとこぼれ落ちた。
「もしもし、敦?」
『……名前ちん?』
「うん」
久しぶりにする紫原との電話にときめきと期待でどきどきしつつ耳をすましていたら聞こえてきた大好きな声。
だけどその声はいつも以上に鼻声がかっていて、しまいにはずずっ、と鼻をすする音まできこえてくる。
まるで泣いた後、みたいな。
『名前ちんなんで最近俺にメールも電話もくれないの』
「えっ」
なにか嫌なことでもあったのかと心配しかけていたのに、突然の私への責めるような口調に呆気にとられてしまう。
いや、これは責められてる。
『俺ずーーっと待ってたのにっ、寂しくて、名前ちんの声聞きたかったけど…!』
「ごめ…」
『なんでっ、っ…うぅー…』
「敦っ、ごめん…」
ストレートな言葉と嗚咽に、ずっと敦と同じ気持ちだった私も彼の思いや寂しさが痛いくらい解った。
だから敦になんて声をかければいいのか分からなくて、電話の向こうでぐずぐずとべそをかく敦の様子に私もまただんだん鼻の奥がじくりと痛みだして、気を抜いたら引っ込んだ涙がまた溢れてきそうだった。
『俺の、こと…っ…嫌いになった?話しも…したく、ないの?』
「ちがうよ!」
『───っ、あの男のとこいっちゃうの!?』
「違う、違う!私は敦だけだよ敦が大好きだよ!」
こんなに敦のことが好きなのに疑われるなんて全然思ってなくて、私は必死に訴えた。
『……俺だって…名前ちんのこと大好きだよ』
「よかった…」
『名前ちんに会いたい。』
「私も。敦にすごく会いたい」
『………名前。』
「ん?」
『好き、大好き。』
「うん、私も敦のこと大好き。」
『でも、なんか大好きじゃなくってさー…』
「えぇっ?」
『大好きの……上?』
なにそれ。
間の抜けた敦の話に思わず吹き出してしまったら、ふてくされると思っていた電話のむこうの敦もつられて笑った。
よかった。