『今日京一さんの家にお泊まりしてきます。』


「………………………。」
休憩時間を見計らったかのように送られてきたメールを何の気なく開いたら、思いもしなかった内容と表示された名前に途端におもしろくなくなった。

「あいつ…」

「どうかされました?」
「いや……なんでもないよ」






昨日涼介さんにメールを送ったっきり、待てど暮らせど一度も返事が返ってこなかった。やっぱり、いきなり京一さんの家に泊まるのはまずかったかな…
なんとなくそんな気はしていたんだけど、いかんせん昨日は緊急事態だったのだ。あれはちょうどリビングの掃除が終わったときだったと思う。
『おい名前!京一がやべえ!』
めったなことがないと電話をかけてこない清次が酷く慌てふためいて私に電話をかけてきたのだ。いつもは言える切り返しも冗談も、清次の二言目に発せられた名前を聞くや否や吹き飛んだ。そこからはもう清次の話もろくに聞かないで電話を切り、とりあえず京一さんの家に大急ぎで向かったのが昼の3時をすこしまわったくらいだった。
結論を言うと京一さんはただの風邪だったんだけど熱がひどくて、だけどあのひとは風邪で大人しく寝てるような人じゃないから一晩だけを条件に無理やり京一さんの家に泊まったのだ。……のはいいのだけど、問題は涼介さんだ。
何度も言うが、昨日からメールの返事がない。
今まで涼介さんがメールの返事をしないことは何度かあったんだけど、私の記憶ではそれらのどれもが何かしら私が原因で、のちのち激おこな涼介さんにしかられている。ということはきっと今日も例に漏れずそう言うことで、私はもうかれこれ15分前から玄関先にいるのだけど決心がつかず家に入れていなかった。
だって涼介さんこわいんだもの…
別に怒鳴られたりするわけじゃないんだけど、なんて言うか…淡々と話すとことかバックに感じるブラックなオーラ…とか?いやでももう叱られるのは確定してるし、乗り越えなきゃいけない壁だし、私は涼介さんに会いたい、し……

うーーん…………

……いやいやいや!嫌なことから順番につぶしてけってさっき京一さんに言われたばっかだぞ私!それにまたちゃんと謝ればいいんだ私!

やっと決心をかためてノブにてをかけようとしたらそれよりも先にドアがひらいた

「いい加減、中にはいったらどうだ?」

くつくつとおかしそうに笑う涼介さんに出迎えられて面食らってしまった私は彼にうながされるままに中に入ったんだけど、まだ涼介さんが笑い続けてるのがどうにもこうにも理解できなくて、彼のこんなに笑ってるところは貴重なのに今はとっても嫌な予感がする。
嵐の前のなんとやら…的な?

「どうせ飯まだなんだろ?テーブルに名前の分用意してあるから」

私のバッグやら上着やらを慣れた手つきでとりあげながら話す涼介さんはやっぱり怒ってなくて、むしろとっても上機嫌にみえる。というかどう見ても上機嫌だ。ということはお咎めなしなのだろうか。
実は私がここに付く前に京一さんか清次がフォローの電話してくれたとか?
いや、涼介さんはそんなことされるのあんまり好きじゃないし、彼らがそんな気の利く人たちかって言ったらそうでもない。じゃあどうしてなのだろうか。悶々と悩み込む私をよそに、涼介さんは背を向けてリビングに行ってしまおうとするから、まだ靴を抜いてない私は慌てて彼の服の端を引っ張った。
「ふ、どうした?やっぱり靴も脱がせてやろうか?」
「え、や、いい!って、違くて…その…お、こらないの?」
いきなり京一さんの家に泊まるって言った、こと。そう言って若干視線を泳がせつつ恐る恐る彼を見上げたら、涼介さんに「怒ってほしかったか?」って試すような含み笑いで聞き返されて慌てて首を横に振った。
私は怒られたい願望とかはもってない。至って平和主義だ。

「怒ってほしいわけじゃないんだけど、どうしてかなーって不思議で不思議で…」

「いや、最初は俺もそのつもりだったんだが…車のエンジン音が止んでからいつまでたっても名前がこなかったから、きっとドアの前で色々悩んでいるんだろうなとおもったらどうしてかどんどん可愛く感じてきて、おかげさまでもう怒る気なんか失せたよ」

だから、おいで
そう言った涼介さんに優しく手を引かれて、私は大人しく彼の胸に収まった。
あ、靴抜いておけばよかったな。

「おかえり、名前」






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