温帯に位置するこの国は、秋から冬へ移るこの微妙な時期にうんざりする程の雨が止むことなく毎日降り続ける。雨や湿気には少しもいい思い出のない名前は、梅雨とこの時期の天気予報は毎日欠かさずチェックしている。
昨夜ニュースで今週はずっと雨だと言っていたのを聞いていた名前は、青空が広がっている中傘を片手に鼻歌を歌いながら学校に登校した

放課後にはその傘が忽然と姿を消すことになるとは予想もせずに、




名前の今週の掃除場所は口うるさいおばさん先生に当たってしまい、他の掃除場所のように直ぐには帰してもらえなかった

「うそ、」

どう考えても先生のせいなのだと思う。
いざ帰ろうと玄関まで行けば、確かに今朝そこに掛けておいたはずの傘がない。周りを見渡しても、今朝名前が持ってきたビビットピンクのビニール傘は見当たらなかった

「あり得ない…」

ショックの余り名前はその場にしゃがみこんだ
いくらビニール傘が他人に持っていかれ易いからといって、あんな目立つ色は誰も持っていかないだろうとたかをくくっていた私が馬鹿だった、色は違えど所詮はビニール傘なのだ。しかも今日は生憎迎えに来てくれる身内はみんな出払ってしまっている。
(どうしよう、)
もう雨に濡れて帰るという手段しかない気がしてきた名前は半泣きになりながら、無駄な抵抗かもしれないが連絡がつくような人を探すためにブレザーのポケットから携帯を取り出した丁度その時だ


「名前?」


知った声に名前を呼ばれて反射的に後ろを振り返れば、そこには少し驚いた眼差しを名前に向ける鈴木がいた。いつもは平介か佐藤が隣にいるから気づかなかったけれど、意外に鈴木も背が高い
「お前がこんな時間まで学校に残ってるなんて、だから今日は土砂降りなのか。」
うんざりと外の雨に目を向けいつもの毒舌ぶりを発揮する鈴木だけれど、今の名前はなんとなく気に入っていた傘を盗られた手前それに反応する気になれなかった。更に、そうといって鈴木に傘に入れてくれと頼めば嫌だと即答されるだろう。運がいいような悪いような微妙な気分だ
「鈴木は居残り?」
「俺は…、ってお前が居残りじゃねえのか」
「今週は調理室の掃除でね、」
それだけ言えば理解したのか、鈴木は「ああ、あいつか」と言って、靴を上履きから外履きに履き替える。
答えてくれなかったが、どうせ鈴木は今日もまた図書室で一人試験勉強でもしていたのだろう。数日前の帰り道に佐藤が「鈴木が勉強ばかりして構ってくれない」とぼやいていた。
「そういえばお前…こんなくそ寒ぃ所で何してんだ?」
「出待ち。」
「誰の?」
「未来の彼氏」
「は?」
いつになく鈴木が私に興味を示してくれるものだから少し嬉しくなって、ふざけてにっこりとそう言ったら、死んだ魚のような目を向けられていつもより低い声で返された。辛い。私はツッコミを入れてほしかったのだ。
「……嘘だよ。誰かに傘パクられて家に帰れなくなったのさ」
「ふーん、…迎えは?」
「今日だれもいない」
「どうすんだよ」
「どうしようもないから、多分今頃家でぬくぬくしている佐藤クンに徒歩で迎えにきて貰おうと今鈴木を見ていて思いついた」
「中々良い性格してんな」
「それほどでもー」
へらへらと笑ったが実際名前は佐藤にそんなこと頼もうなんて微塵も思っちゃいない。もし鈴木が帰った後名前が佐藤に連絡したら、ほぼ100%彼は学校まで歩いて名前を迎えにきてくれるのを知っているからだ。困ったなあ…、そう思って今まで外に向けていた視線を鈴木に向ければ、そういえばいつのまにやら無言になっていた鈴木と目があった。
「……何?帰らないの?」
「俺は思ったんだけどな、」
「え?」
いつもなら名前と目があうと鈴木はすぐに視線を違うところへ向けてしまうが、今は少しも名前から目をそらさずに呆れた声音で言う。
「佐藤に迎えにきてもらうよか今お前が俺の傘に入っていった方がよくねーか?」
「そりゃーそうだけど…って、え?」
彼には少しも期待を寄せていなかっただけに、衝撃は大きい。まったく言葉と状況を呑み込めない名前に苛立ちと羞恥が募ったのか鈴木は、しゃがみこむ名前の腕を引いた。
「だぁら、んなところで人生の終わりみてぇな顔して座ってねーで、行くぞ」
「え、ホント?」
「嫌なら置いてくけどな」
「やだ、入らせて!」
鈴木に立ち上がらせて貰った名前は慌てて外履きに履き替えて、傘を差して外で待っていた鈴木の腕に飛び付いた。離れろ、って言われたけど絶対離れてなんてあげない






(こんなに鈴木に近づいたの初めて。)(るせ、離れろ)





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -