ばたーん
「名前ちん大変!」
どたどた、ガンッ
他校との一日練習試合の翌日にも関わらず、朝早くから部活があると言って行ってしまった敦のアパートで午前中のうちにあらかたの家事を終わらせ昼食も作り、一息つきつつソファーに転がってうとうとしはじめていたところに突然響いた爆音。それに名前は反射的に飛び起きた。こんな突撃訪問をする奴は一人しかいない。
「いったぁー…」
余程あわてていたのか、いつもならよけれているはずのリビングに入る手前の少しだけ下がった壁におでこを盛大にぶつけたらしく、リビングに入る一歩手前で紫原はうずくまって身悶えていた。本当、ばか
「もー、前方不注意は命取りだよ」
「んーだってー」
名前を涙目で見上げる紫原の長い前髪を掻き分けて、腕に通していたゴムで縛ってみれば壁にぶつけたであろう場所は赤く腫れ上がっていた。相当なスピードで突っ込んだみたいだ。
「馬鹿。たんこぶんなってんじゃん、今ひやすからユニフォームとか洗濯機に入れてきて」
「わかったー」
のそりと立ち上がって脱衣場へ向かった紫原を見届け、名前は氷袋を用意するためにキッチンへ向かう。
そういえば敦がおでこをぶつけてまで伝えたかったことってなんだろうか。前にも何度か慌てて私の元へきたことがあったけど、私の好きなお菓子を見つけて買ってきたけど食べてしまったとか5教科テストを受けた内3つ並べたら点数が連番だったとか…他にも思い出せば色々あるけどどれもあまりいい思い出がない。
今回は(紫原の不注意だったけれど)怪我しちゃったし、たとえどんなにくだらないことでも怒らずに褒めてあげよう。
氷を入れたビニール袋に水を入れつつ名前は密かにそう決意した。
「名前ちーん、おでこめっちゃはれてきたかも」
「え、まじ?」
まじまじ、そう言いつつ紫原は名前を引き寄せて身体をぴったりくっつけ、名前の頭上から顔をのぞかせた。晒された額は確かにさっきよりも腫れていた。
「あらまー…ほら、これでちゃんと冷やして」
「んー」
腕をのばして紫原の腫れた額に氷をあててあげれば、紫原は気持ちよさそうに目を細めた。かわいい。
紫原のこうゆう手のかかるところは全然めんどくさく感じない。むしろバスケ意外ではいつもぼーっとしている紫原が心配で心配で、ついついかまってしまう。
紫原は周りに女の子がいればそれだけで生きていけそうだ。そんなきがする
「あ、そうだった!」
「ん?」
「忘れてたんだけど──…」
「、───んっ!?」
なにを、そう言おうと開かれた名前の唇を、紫原は見計らったかのように自分の唇で包みこんだ。大きな手で腰と顎を押さえられ、動こうにも動けない。
がしゃん、氷袋が名前の手からシンクの上に滑り落ちる。
「んーーっ、……ぷはっ」
「なんかさ、一昨日キスの日だったらしくてー…っ!」
してやったりと酷く満足そうに唇を外しつつ話しはじめた紫原のみぞおちに、数分前の決意を撤回した名前の怒りの拳がコンマの速さで深く刺さった。