「ん────…」


頭の上の方でけたたましく鳴り響く携帯の着信音で名前は目をさました。
完全に布団に潜りこんで寝ていたらしく、今は朝なのか昼なのか夜なのか少しもわからない。
ただわかることといえば、酷く頭が痛いことと体が指先1つに至るまで重たくて気だるく動かすことすら億劫だということくらいだ。
そして目の前には大好きな恋人敦の胸板、背中には腕がまわされている。
あったかい…。
私もその広い背中に手を這わせてきゅっと距離を縮める。

「…………ん?」

そこで名前は少しの疑問を覚えた。敦の背中はもっと広くて筋肉質だと思っていたけれど、
…それにしても頭は痛いし、それを増長させている着信音は中々鳴り止まない。
考えようとしてもがんがんと頭に直接鳴り響く音楽が邪魔で、音の大きさから距離的に携帯はすぐ近くにあるようだったため名前は布団から手のみを出し、なんとなくの感覚で音源を引っ付かんだ。
この着信音誰のだっけ?
なんてなんとなく考えながらろくにディスプレイも確認せずに通話ボタンを押して耳にあてた。

「…もしもしー?」

『名前ちん?いまどこ?俺朝から電話かけまくってんだけどなんででないのなんで家にいないの今どこにいるの?』

「………へ?私敦の家にいるんじゃないの?」

『は?』

聞こえてきたのは、珍しく饒舌で早口な敦の声。
そう、今一緒にいると思いこんでいた紫原の声だった。
わけがわからない。
敦の部屋のベッドの中だと思いきっていたここは敦の部屋ですらない。
じゃあここはどこ?
わたしを抱いてるのは誰?
ぐわんぐわんと回る二日酔いの頭と思考。
今自分のおかれている状況がまったくわからなくて、取り敢えず腰に回った(敦のものだと思いきっていた)腕を退けて起き上がった。

「嘘………」

『………………。』

そこに広がるのは知らない男の部屋。
床に四方八方散らばる酒瓶、缶、そして脱ぎ捨てられた衣類。
さぁ、と顔が青ざめていくのを感じて慌てて布団から出て身につけているものを確認した。
上にはYシャツを着ていて下はパンツ。
大丈夫、パンツもブラもちゃんとつけていた。
ベッドわきにあるゴミ箱も大丈夫。
使用済みコンドームやティッシュなんて見当たらない。
あとは────

「ん────さむ、……なにしてんの?もーちょっと寝てようぜー」

「きゃっ、」

ベッドの縁に腰かけて通話中になっている携帯を持ち直そうとしたら、突然後ろから腰を引かれ、後ろの男の胸に背中からおちた。
なんてタイミングの悪いやつ!
顔を見ればやっぱりそれは全然知らない人だった。
そして私のタイプど真ん中だった。

「や、……私かえらなきゃ」

やんわり胸板を押し返し、名前は慌てて散らばる衣服を拾い集めて着る。
携帯の画面をみたらまだ通話中になっていて、当然今の会話…いや私が通話を開始して今まで、つまり始終を全て聞かれている。
電話の向こうが無言のために、こっちから切ろうと思うけど話しかけることが怖くてそれができない。
冷や汗で服が素肌にひっかかる。

「んーそっかー…、二日酔い大丈夫なの?俺すっげーガンガンするんだけど…。あ、家まで送ろっか?」

「え、いや大丈夫!ありがとう!ばいばい!」

思ったよりいい人!
そう思ったが口にはださず、カバンの中身が変わっていないか確認してから名前は名前も知らない男の人のマンションを飛び出した。
ここがどこだなんて当然わからない。
とりあえず名前はタクシーを拾って乗り込んだ。
そこで改めて携帯を見ると、既に通話は終了していた。






((((お願いします運転手さん急いでください!!))))





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