いつも通りのハードな部活もようやく終わり、今日一日で大量に消費したテーピングやスプレー、湿布等を備品庫で補充した帰り道。

「!」

一人体育館の入り口で壁に背を預け佇む青峰の姿があった。
その姿を見つけた途端、私の心臓はびくりと跳ねる。
いつも通りさつきと一緒に帰ったんじゃあなかったのか。

青峰は今日、いつにも増して自己中心的かつ攻撃的なプレーが目立っていた。赤司がいたために練習中はそれはどことなく抑えられていた気がしたが、それでも殺気だった青峰のプレーは練習後の黄瀬との1on1でタカが外れたようで、黄瀬をぐうの音も出ないほどぼっこぼこに負かしていた。どうしてあんなに苛ついていたのか、青峰とクラス違うし彼女でもないし部活以外では少しも青峰と関わりも接点もない私には当然そんな理由なんて皆目検討がつかなかったし、そもそもあのさつきでさえも原因がわからなかったのだから私なんかにわかるはずがなかった。赤司君が青峰にどうしてか聞いていたようだけど「なんでもねぇ」の一点張りで少しも話そうとせず、本当にお手上げ状態だった。

関わらぬが吉。

ということで飛び火が飛んでこないようとりあえず今日の部活中はなるだけ青峰に近づかないようにしていたし、キセキを除いた他の一軍メンバーも青峰の異様な雰囲気にびびってしまっていたので青峰のサポートは全てさつきがこなしていた。最近は名前が青峰のサポートをしていたからか、突然のさつきとのチェンジに青峰から突き刺すような鋭い視線が送られてきていたのは感じていたけど。そんなの無視だ。無視。
というわけで今日私は青峰と一言も口をきいていないし、シカトぶっこいていたせいもあって余計気まずいわけだ。
「よォ」
「……まだ帰ってなかったんだ?」
部室に戻るには今青峰の立つ扉をくぐらなければいけないから、当然その横をすり抜けなければいけないわけで。なんでもない顔して通りすぎようとしたけれど、やっぱり私は青峰に呼び止められた。うん、そんな気はしていた。

「まだ用事が残ってたしな」
「ふーん」

それにしても嫌な雰囲気。
妙な威圧感を放ちながら、待ってましたとでも言いたげに皮肉に顔を歪めてこちらに向き直った青峰。
これが嫌で避けていたが一対一で対峙するとやっぱり怖い。青峰越しに、体育館内ではまだ数人が自主練習に励んでいるのが見える。誰でもいいからこっちに気づいてくれ。
今さら思ったが、まさか青峰は私を待ち伏せしていたのではなかろうか。いやまさか。ちなみに今日わたしは青峰を怒らせるようなことはなにもしていない。
「じゃー、わたし帰るね」
「……あぁ?ふざけてんのかテメェ」
それまでにやにやと皮肉に歪められていた青峰の表情が一転し、突然発された低い唸るようなその声に名前はドキリと青峰を仰ぎ見ようとしたがその刹那、青峰の褐色の大きな手が名前の頭に伸び、それまでさらさらと背で揺れていた名前の長い髪を容赦なく鷲掴みにして怒りに任せ加減なく引っぱった
「いっいたい痛い痛いっ!」
「るせぇよ、黙れ」
「いきなりなんなのっ!」
青峰はそのまま名前を引きずるように、名前が今来た道を歩き出す。

後方で名前の手にあった救急箱の落ちる音が聞こえたが、実は青峰の怒りはそんなことに構っていられないくらい高まっていたのだ。




「いっ、」
どん、備品庫につくなりそこに強い力で容赦なく突き飛ばされ、油断していた名前は鉄製の戸棚に勢いよく背を打った。備品庫は真っ暗で、かろうじてある月明かりが辺りを照らしている。
青峰は、よろよろと立ち上がり自分を睨み付ける名前を酷く冷めた目で見下ろしつつ後ろ手に鍵をかけた。

「逃げんじゃねぇよ」

一軍のためだけに作られたたいして広くない備品庫。
密室にも関わらずそれでも壁伝いに青峰から離れようとする名前を視界に捉え、青峰は忌々しげに舌打ちをした。そしてひらいた距離を一歩で詰め、名前の両手を掴みあげる。久しぶりに掴んだ腕は相変わらず細く柔らかい。
「いっ、た」
名前の腕は冷えきり、更にはかすかに震えている。意識的にではないにせよ青峰を拒もうとする名前の態度がまったくもって気にくわない。青峰はまた舌打ちをした。数時間前からの苛立ちは名前を目の前にして加速度的に上昇した気がする。どうしても自分をとめられない。

「そんなに紫原がイイのかよ」

「は?敦?」
ほら、俺のことは苗字で呼ぶくせに紫原のことは名前で呼びやがる。それに、昼休みにたまたま見たあの光景。
自分は名前と付き合っているわけじゃないし、名前が誰と何をしていようと俺がとやかく言う筋合いもないが、名前が自分以外の男と仲良くしているのがどうにも気にくわない。
「なんだァ?もうあいつとヤったのか?」
「は、───ッ」
青峰を前にしたときはこうも反抗的に拒絶するくせにそれ以外の奴の前ではへらへらきゃあきゃあ媚びを売って、名前の腕を握る手に力が込もっていくのがわかる。
「どうだったよ?あいつのチンコ」
「ちょ、青峰っ」
「あいつのでけぇからなー、お前のまんこがばがばんなったんじゃねーか?」
「やだっ、」
「るせェよ」
青峰は近くに見えた古い革張りのソファーに名前を放り、その上にのしかかった。





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