「うっ‥ふぇッ‥」


鬼兵隊の船を飛び出して来た

暖かく優しい高杉様の手を振り払い、私は逃げて来た


外は真っ暗で曇っているのか、月の光さえも届かない


血まみれの真選組の隊服のまま、私は泣きながら人影のない道を歩いていた

普段は賑やかなここも、今は静間にかえっている


これから…

私は一体どうすればいいのだろう



偽りでも仲間だった人達を切った

死んだか生きてるかなんてわからない

無我夢中だったから‥


高杉様に真選組が大切になってしまったと伝えた

でも彼は私を咎めなかった

これは完全な裏切りなのにもかかわらず…



これ以上、高杉様の側にいたらいけないと思った

私が犯した罪は許されない事なのに、許してもらえるみたいな気になってしまうから

だから私は逃げて来た



でも−−−



頬に冷たい粒が落ちて来た。ふと頭上を見上げると、黒い空から雨が降ってきた

むろん、傘なんて持っていない私は雨を防ぐすべなどなく‥


隊服が雨を吸って重たい

濡れた髪が絡まる


宛もなく歩いていると、後ろから走って来る足音が聞こえた

雨に濡れた地面を蹴る音が次第に私に近づいて来る


「高杉様……?」


高杉様だと思った

追い掛けて来てくれたのだと思った

だけど…



「高杉じゃなくてごめんな」

「ぁ…」



振り返り、そこにいたのは銀さんだった

がっかりしたというより、ホッとした

高杉様だったらどうしたらいいか、わからなかったから



「‥どうした?びしょ濡れじゃねーか」

「うん…ごめん」

「なんで謝るんだよ…ι」



傘を私の頭上に差し出してくれた



「どうした?高杉となんかあったか?」

「…っ…ぅ」



銀さんは知っていた

高杉様も真選組の皆も知らない事


私がスパイである事

私が真選組を大切に思っていた事

私が誰よりも高杉様を慕っていて愛している事

私が全てを失うことが恐ろしい事


銀さんは全てを知っていて、私の心の支えだった



「私…どうしよう。どうしよう……っ」



再び雨が私を打った

銀さんが傘を放り出して、私を抱きしめた


不思議と嫌な気はしなかった

拒もうとも思わなかった



「大丈夫だ真威…。誰もお前を攻めたりしねェから」


「それが怖いの…。私がいけないのにっ…許されるのかと思うと−−っ」


「許すもなにも、真威は何も悪くないだろ。真威はただ、周りの全てを好きになっちまっただけじゃねーか」



そう…

私はみんなが好きで

みんなに好かれたかっただけ

ただ…

それだけ。




(どうか海となって私を覆い隠して)



「戻りたくねェなら俺と来い」

「え…?」


「真選組からも高杉からも見つからねェようにしてやるから」

「……」

「俺が真威を全てから守るから」



雨が冷たかった

銀さんと触れる体が暖かかった


私は楽になりたかった








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