私は鬼兵隊幹部として、真選組に送られたスパイ。
狙いは真選組の壊滅。
「真威!」
「はい……。!?」
ある日。突然それは起こった。
いつもの様に真選組の『私』を演じる一日が始まった筈だった
私の回りには抜刀した隊士が、刃先をこちらに向けて睨んでいた
その異様な空気に、一瞬で私は『嘘がバレた』と認識した。
***
「嫌!離して!!」
「それは無理なお願いですねィ。裏切り者」
沖田に牢屋に放り込まれ、私と彼はそこに二人っきりになった。
沖田だけだったら、どうにかして騙せるかもしれない…
と、演技を続ける。
隙があれば逃げよう。
「総悟…」
「アンタに名前で呼ばれたくないでさァ」
そう言われた時。
何故か胸がズキっと痛んだ。
私が真選組を騙してたから『アンタ』って言われても仕方がないのに…
だいたい、元から敵なんだから……
そんなの………
「……っ」
「泣いても無駄ですぜィ。俺がSなのは、アンタもよく知ってるだろ?」
なんで……
なんで、こんなに胸がいたいんだろう。
涙を流したのも、もちろん演技のうち。
本気で泣く理由なんて、一つもない。
だって私達は敵同士なのだから。
「総……一番隊隊長さん」
「っ−−…」
技とよそよそしく呼んだ時、少し沖田の表情が歪んだ気がした
涙を流しながら、でも笑いながら……
「ごめんなさい」
いつもみたいな無邪気な作り笑顔で笑った。
「私……この隊服を着た時に誓ったんです」
これは演技…
本当に思ってる訳じゃない
「この服を着てる時は……真選組でいようって。真選組の皆を裏切らないでいようって…。
たとえ………鬼兵隊を裏切って、高杉様に殺されても。
真選組の仲間は…傷つけたくなかったから…」
ガチャ……
ふいに鈍い鉄の音を起てて、牢屋が開いた。
驚いて私は彼を見る。
一体…何をしているの?
いつかくる
裁きの日に怯えている
「え……何して…っ」
「……逃げなせィ」
「え−−−…」
縄を解かれて自由になったが、信じられなかった
「真威は…俺らの仲間でィ。何があっても…誰が何て言っても…それは変わらねぇでさぁ…」
なんて馬鹿な男。
あぁ、哀れで…馬鹿な男
「うん…そうする」
「え…?」
立ち上がると同時に私は沖田の腰にさしてあった刀を抜き取り、刺した
カクンと彼は膝を付き、冷たい床に倒れた
じわっと赤い血がにじむ
「仲間?馬鹿言ってんじゃないわ。私とあたな達は敵。それ以外の何もないわ!」
「じゃあ……」
うっすらと目を開け、沖田は私を見上げた
「なんで泣いてんですかィ……?」
それっきり彼の声が聞こえなくなった。
あぁ…どうして涙が止まらないの−−…?
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