白澤さまは百年に一度くらいの周期で、霊力が弱る日があるらしい。普段は人型を取っているけれど、その日だけは神獣の姿に戻ってしまうと言っていた。千年ほど一緒にいるけれど、未だそれを見たことがないのは、決まってその日に彼がどこかへ行ってしまうからだ。弱っている姿をなまえには見せたくないからなのかもしれない。なまえが風邪を引いた時はにやけながらずっと傍にいるくせに、自分は駄目だなんて。



「……ってことで、今日一日は絶対お外に出さないから!」



白澤さまの部屋中に、鬼灯さまにもらった妖封じのお札をべたべた貼ってやった。鬼灯さまはちょっとだけ怪訝そうな顔をしていたけれど、取りあえずお礼を言ってさっさと地獄から出てきた。桃太郎くんは今日飲みに行くって言ってたし、なまえも絶対に扉を開けないから、白澤さまがこの部屋から出ることはないだろう。正直神獣という立場の白澤さまに妖封じのお札は効くのか疑問に思ったけれど、余程強いお札だったのか、それとも鬼灯さまの執念か、しっかり効いてくれたようだ。当の白澤さまといえば、人型を保てずに本来の姿に戻っている。お札の効果は部屋から出られなくするだけなのか、いつものように飄々としている気もするけれど、幾分かげんなりしているみたいだ。床で伏せの姿勢を取りつつ、じろり、と頭にあるみっつの目がなまえを見る。



「よりにもよってこんな日に、何が悲しくてなまえに監禁されないといけないわけ?」



はぁ、とわざとらしく大きなため息をつく白澤さまに若干ムッとしたけれど、白澤さまの言い分も分からないでもないのは確か。触り心地の良い真っ白な毛に覆われた頭を犬をなでるみたいに優しくつかむと、白澤さまはくすぐったそうに目を細めた。



「だって、この日はいつも白澤さま、どっか行っちゃうんだもん!なまえが弱ってるときはずーっとそばにいるくせに」

「弱ってるなまえを見るのが楽しいからだよ。大体僕が毎回わざわざ出て行ってやってるのは、なまえへの優しさなんだけど、分かんないかなぁ」

「何が優しさよ、嘘ばっかり!花街に行ってるのは知ってるんだから!どうせ妲己さまのお店にでも行って、女の人侍らせてるんでしょ!」

「だからぁ、それが優しさなんだってば」



さも面倒臭いとでも言いたげに、くぁ、とうさぎみたいにあくびをする白澤さまにイライラだけが募っていく。毎日のように花街へ行っては、香水か何かのいい匂いをさせて帰ってくるのは慣れっこだからいいけれど、弱ってる姿をなまえに見せないで他の女の人には見せるのが気に入らない。醜い嫉妬だっていうのは分かっているけれど、それでも、



「なまえは白澤さまのこと、全部知りたいのに。力にだって、なってあげたいのに!」

「……言ったね?」



すぅ、と細くなる瞳に剣呑な色が宿ったのは一瞬のことだった。気怠そうに伏せの姿勢から体を起こすと、じりじりと距離を詰めてくる。一体何なんだこの人……今は獣か。いや、そんなことはどうでもよくて!



「ち、近いよ…」

「あはは、そうだねぇ」



ついに扉まで追い詰められて、あぁこれは駄目だとドアノブをまわしたけれど、なぜか開かない。鍵なんて元々ないし、扉と壁の境目にはお札も貼っていない。足で蹴っても頑として開かなくて、そうしている内に白澤さまの前足で足を払われ、俯せにすっころんだ。



「ぎゃっ!」

「もっと色気のある悲鳴でないわけ?」

「何で開かないのぉ…!」

「……なまえ、自分も一応妖の類に入るの、分かってる?」

「……あ」



腹部が腐敗しているなまえは最早亡者という括りにも入れない不完全な存在だから、分類としては僵尸になるのだろうか。あぁ、鬼灯さまがあんな表情をしたのはこれだからか…!言ってくれればいいのに、あの冷徹閻魔の犬(なんて言ったら怒られるから絶対言わない)は面白そうだからとかいう理由でほっといたんだろう。



「いつか仕返ししてやる…!」

「ところでさぁ、」

「うっ!?」



ずしり、とお尻から背中にかけてかかる重み。腰の辺りには白澤さまの前足があって、のしかかられていることに気付く。霊力が弱っていても体の大きさは調整できるのか、白澤さまの体はそこまで大きくないとはいっても、大型犬くらいのサイズはあるものだから、ちょっと重い。目の前には扉があるのに、逃げられないなんて…!歯痒さにぎりりと拳を握っていると、お尻に何か固い物が当たった。もしかしてもしかして、



「白澤さま…勃ってるぅ…」

「霊力が弱まるのはしょうがないんだけどさぁ、何でか性欲がすごいんだよね、この日」



だから蝋梅に負担掛けたくなかったから色町行ってたんだけど、なんて呟きながら背中をべろりと舐め上げてくる。動物特有の少しざらついたその感触に、思わず上ずった悲鳴を上げると、白澤さまはクク、と喉の奥で笑った。



「出られないならしょうがないなぁ」

「ま、待って」

「覚悟してよ?なまえ」



あぁ、早く帰ってきて桃太郎くん!



なまえには色々設定があるんですが、それはまたの機会に。ちなみに一人称がなまえです。

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