クラピカは本当にわたしのことが大好きみたい。いつだってずっとわたしのそばにいて離れようとしないし、出かけるときだってついてくるか、でなければいつどこでだれと何をするのかをちゃんと言ってから出かけないとだめって言う。クラピカはハンターっていうお仕事をしてるらしいけれど、詳しいことは教えてくれない。わたしを危険な目に遭わせたくないからだって。わたしはハンターじゃないただの一般人だから、ハンターのことはよく分からない。ただ、クラピカは時々どこか遠くを見るような目をしている。悲しいの?って聞いても、いいや、としか返してくれない。真っ黒い目を覗き込んでも何も見えないから、わたしはあきらめて、そっと彼の背中にわたしの背中をあずける。背中のぬくもりがわたしとクラピカをつないでくれているような気がして、安心するから。だからいつかクラピカがわたしに全部打ち明けてくれる日を待つの。













「……何だ、これは」



クラピカがこれでもかってくらい大きく目を開いて見つめていたのは、何年か前に友達からもらったお宝だった。友達っていっても10歳以上はなれてるから、どっちかというとお兄ちゃんのような人だけれど。クロロ=ルシルフルなんていうへんてこな名前のその人がわたしにくれたのは、緋の目とかいう、どこかの少数民族の目だった。ホルマリンにつけられた状態だけど、太陽にかざすと緋色がきらきら光ってきれいなそれを、クラピカは怖い顔で見つめていた。



「緋の目っていうお宝だよ」

「どこで手に入れた」

「もらったの」

「誰にだ」

「クロロっていうお兄さん」



ふらふらふら、とクラピカはよろけてわたしのベッドに座り込んだ。それから祈るように両手を握って、そこに顔をうずめた。クラピカはクロロと知り合いなんだろうか。それとも、緋の目が欲しいんだろうか。わたしだって緋の目はお気に入りだけれど、クラピカが欲しいのならあげたいと思った。はだしのままクラピカの隣に座ったら、クラピカはわたしと向き合ってから、そっと抱き寄せてくれた。



「これからその男とは会うな」

「どうして?」

「どうしてもだ。私がいるだろう」

「うん、わかったよ。クラピカがいれば何もいらないよ」

「よかった」

「ねえクラピカ」

「何だ?」



クラピカの首に手をまわして、ぎゅっと抱きしめる。細い金色の髪がくすぐったい。クラピカはいい匂いがするから、すき。



「クラピカが欲しいなら、そのお宝あげ」



る、までは言えなかった。わたしの目に映るのは白い天井と、クラピカの顔。わたしの首にはクラピカの指。ぎりぎり、ぎりぎり。……あれ?



「お前はこれが何なのか分かっていないのか」

「……くら、ぴか」

「これがいつ、どこで、誰が、どうしたものなのか」



いつ、どこ、だれ、なに。それはいつもクラピカがわたしに聞いてくるせりふだ。こんな時でもクラピカはわたしに聞くんだなあ、って思ったら、少しだけ可笑しくなった。



「答えろ」

「…ごねんまえ、どこかで、くろろが、うばってきたんだよ」

「どうやって」

「どこかのみんぞくを、みなごろしに」

「私がその、クルタ族だ」



憎々しげにそう吐き捨てて、クラピカは自分の目に指をつっこんだ。痛くないのかなあ、なんて思ってると、黒い黒いと思ってた目なのに、真っ赤だった。緋の目と、おなじ。



「私の一番欲しい物を、私の一番大切な者が持っていたとはな」

「くらぴか」

「私は悔しいよ」

「くらぴか」

「どうして」



部屋の中なのに雨が降っている。おかしいなあ。……ううん、部屋の中で雨が降るはずない。それにこの雨、しょっぱい。この雨は、クラピカの目から、



「なかないで」

「好きだ」

「すき、?」

「あぁ。好きだ……好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ」

「くるしいよ」

「私も苦しいよ」



わたしの首をしめつける力が、ふと消えた。ひゅ、と入ってきた酸素で思わずむせてしまう。涙とよだれがこぼれる。クラピカの前なのに、こんな汚い姿。はぁはぁ、息を整えてたのに、クラピカのくちびるがわたしのくちびるをふさいでしまったから、また息ができなくなった。



「はぁ、……あふ、…くらぴか、」

「……好きだ…」

「すき…」



こつん、と額をあわせて、片方だけ真っ赤な目でクラピカは悲しげに笑ってみせた。







殺したいくらい、愛してる





良く分からないお話になってしまいましたが、クラピカが一方的に病んでます

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