女の裸を見たことがなかったわけではない。一応年頃の男なのだからそういった類の雑誌を見ることもあったし、友人と夜な夜なブルーレイディスクを鑑賞したことだってあった。その度に『どの娘の体が一番良いか』だとか、『どの娘の顔が一番好みか』だとか、下卑た話をしたこともある。しかしそれは全て紙面や映像によるものであって、己の瞳で実際に身内の女以外の裸を見たのは初めてだったのだ。20歳にして他人の、女の裸を目にした膝丸燈が起こした行動は、彼女の体にバスタオルを被せることだった。


「なッ、なッ、なんッ、」
「あれ?あかりん」
「何で裸で出て来るんだよ!」
「服とか忘れちゃって」


そんな馬鹿なことがあるか、と突っ込みたい気持ちをぐっと抑え、できるだけ彼女の裸体を目に入れないようにタオルをくるりと巻いてやれば、呑気になまえは「ありがとう」などと言ってのけた。本来ならば自分がシャワーを浴びた後に使用する予定であった白いバスタオルは、なまえから滴り落ちる水を吸い、すっかり重くなってしまっていた。軽く眩暈を覚えながらも、燈とて健全な男子である。真っ白なタオルよりもほんのりと赤みを帯びた肌に目が行くのは仕方がないことだ。体に巻いたタオルからはみ出すほど大きいというわけでは決してなかったが、そこそこ豊かな胸元へ思わず視線を落とすと、彼女の鎖骨下から谷間の辺りまで走った傷跡が目に入った。既にふさがってはいるが、肉同士を無理矢理引っ張って合わせたようなそれはとても痛々しい。燈の視線に気づいたのか、なまえは照れ臭そうに笑った。


「子どもの時にガラスでやっちゃったんだ」
「それは……痛かっただろうな」
「痛かったよ」


強く発せられたその言葉は燈の鼓膜を震わせた。なまえは唐突に燈の手を掴み、その指先を傷跡に這わせる。つるりとしたその感触に、びくりと体が跳ねた。余り気持ちの良い物ではないからだ。東洋人特有の少し黄色い燈の手に重なるなまえの手は、火照りが冷めたのか透き通るように白かった。何かを諦めたような、それでいて泣き出してしまいそうな、虚ろな表情のまま、なまえはゆるりと笑った。ぞくりと背筋を恐怖にも似た何かが駆け抜けていくのを感じ、燈は無理矢理その手を離し、背を向けた。


「……この時間帯なら、ここを通るクルーは少ないだろうから、さっさと部屋に戻った方がいいぜ」
「うん、ありがとう」


シャワーはもう少し時間が経ってからにしよう。その頃には混んでしまっているかもしれないけれど。小さく溜息をつく燈の背後で、なまえがただじっと、無表情で自分を見据えていたことなど、彼は知らない。




続きます

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