「ごめん」

何度目になるだろうか。本当に悪いと思っているのに、これ以上ないくらい反省しているのに、なまえちゃんは僕を見てくれない。いや、僕の方は向いているけれど、瞳は虚ろだ。真っ赤に泣きはらした瞳からは涙の跡が道を作っていた。不謹慎にも、兎みたいだと思った。

「こんなことになるなんて思わなかったんだよ」

なまえちゃんはお香ちゃんのところの獄卒だ。邪淫の罪で堕ちた亡者を呵責する小鬼。優しくて、気取らなくて、でもちょっぴり泣き虫な彼女に心を奪われるまでに時間はさほどかからなかった。牡丹色の着物がよく似合う、笑顔の可愛い女の子。


「ねぇ…どうしたら許してくれる?」
「……」

いつだって後悔するのは事が起こってからだ。後悔先に立たず、覆水盆に返らずとはよく言ったもので、後からいくら悔やんだところで同じだけれど。

僕は幾千万年を生きてきた神獣だ。それなりに…っていうか、だいぶ遊んできたし、色々なことも知っている。けれど…知識だけあったところで仕方がない。この子が泣き止む術を持たない。いくら森羅万象を知っていると言ったって、今ここにいる僕は、ただの役立たずだ。

窓際に置かれた椅子に座ったままのなまえちゃんと、彼女の足元に跪いてその手をなでる僕を、さっきから桃タローくんが心配そうに見ている。どういう状況なのか把握していないわけでもないだろうに。優しい子だ。けれど今はその優しさが辛い。

少しだけ、膨らんだ腹。それが意味するものを分からないほど、僕も馬鹿ではなかった。たった一度の契りで子を宿すなんて。今ならニニギの驚いた気持ちも分かる。けれどあちらはれっきとした夫婦だ。僕はなまえちゃんを手籠めにした。嫌がるこの子を押し倒して、無理矢理体を暴いた。なまえちゃんは、生娘だった。

「……ごめんね…ごめん…」

「………消えて。…わたしの前から、消えてください…」

彼女は、唐瓜くんに恋をしていた。ぽたりと落ちた雫は僕のものか、それともなまえちゃんのものか。腹を撫でた手は、ぴしゃりと弾かれた。





褥に落つや一条の涙





クズ澤さん。拍手でいただいたネタから書き起こしてみました。お気に召しますれば幸いです。そのうち前日譚とか幸せverとか書きたいなぁ

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