07 | ナノ


剣崎さんは、わたしにいくつかのことを教えてくれた。オトウサンが言ったことを実行するわたしは剣崎さんの命令を聞けないけれど、この命令、というより教えてくれたことはオトウサンがわたしにとのことだった。
ガゼル様のご機嫌をとる。ガゼル様がしたいことを優先してさせる、ガゼル様のやることに文句を言わない、ガゼル様がわたしに何かしろと言えばなにかする、嫌なことがあって嫌がらずにやる、セックスをする。別に嫌ともなんとも思わない。ただ頷くだけだ。
腹部にできた痣を擦りながら、鏡に映る自分を見つめた。無表情。服を上げ、痣を鏡に映す。息を止めた。

「……、は、」

苦しくなって空気を吸う。生きている。わたしは生きている。生きているのに痛さを感じない。でも、当たり前である。生きているから当たり前だ。今日剣崎さんに呼ばれているから、早く行かなければならない。
部屋を出た。机に座って本を読んでいるガゼル様に、一言入れてガゼル様の部屋を出た。長い通路を歩く。滅多に人とすれ違わないので、変なことを思わなくて済む。と、何も考えないで歩いているとあっという間に医務室に着いた。ドアをノックして部屋に入ると、剣崎さんと数人の医者がいた。「こんにちは。」「…こんにちは、剣崎さん。」
剣崎さんの話は薬の服用の仕方と、ガゼル様とはどうなのかと言ってきた。どうなのか、と言われても、どうもしない。何も起きない。「はい、ガゼル様とは順調です。普通に過ごせています。」「そうですか、それならいい。」

用は薬の服用の事とガゼル様との事だけだった。ほんの数分で終わり、医務室を出て、誰もいない通路を歩いて、ガゼル様の部屋に入る。

「おかえり。」
「…、ただいま帰りました。」
「ねえ、今日は練習がないんだ。」
「はい、存じています。」
「だから、今日は一日中一緒にいよう。」
「はい。」

ガゼル様は何があったか訊かなかった。わたしが返事をするとガゼル様はわたしの腕を引いてベッドへ落ちる。受身をとっていないわたしはベッドに弾んだ。「ねえ」

「私と、もしセックスをしたら、どうする?」
「セックスを、したら?」
「…後悔する?」
「後悔…、いいえ、後悔はしません。」
「……本当?」
「本当です。」

ガゼル様は石のように固まってわたしを見つめ、段々と耳まで赤くした。「…本当?」また訊いてきた。「本当です。」

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