05 | ナノ


「お前がガゼルのお気に入りか」

この人は、誰だ。わたしはオトウサンとグラン様しか頭に刻み込まれていなかったので、わたしの目の前の金色の目をした人物の名前は知らない。トイレに行くのをやめておけばよかった。
この人はわたしを上から下まで撫で回すように見て、ニヤリと口が孤を描くように笑った。

「へえ」

この人はわたしに近付いてきて、自分の唇とわたしの唇と合わせた。すぐに離れた。この赤い人は驚いて目を開けている。「なんだその無表情…気色わりぃ…」本当にわたしを気色悪そうに見ている。
ジロジロと見られていて、いい気はしない。

「バーン!」

ガゼル様の声がした。後ろに振り返ると、ガゼル様がいた。バーン、とはわたしの名前ではない。この人の名前だ、きっと。
「オレ、こいつにキスしたぜ」バーン様がニヤニヤと笑いながら言う。ガゼル様は絶句していた。バーン様とわたしを交互にチラチラと見遣り、照れているような怒ったような顔をしながら頬を薄くピンクに染めた。
「帰るぞ」ガゼル様はわたしの腕を引いて、ガゼル様の自室に向かう。自室に段々と近付いていけば、強い力で掴まれていた腕に血が通っていくのがわかった。


「…本当にキスされたの?」
「唇を合わせることですか?」
「ああ」
「はい。接吻をしました。」
「……別に、バーンはキミに好意を持ってキスをしたんじゃないよ、ただの興味本位だ」
「はあ…」

でも、わたしは好意を持つ相手にしか接吻をしないとインプット、されている。あとその後の行為とかを、色々と。
ガゼル様はそわそわし始めて、辺りに視線を移動させる。

「キミは、どう、キスのことでインプットされたわけ?」
「好意を持つ相手にする、とインプットされました。」

わたしは無表情に言った。ガゼル様の顔がゆっくりわたしの顔に近付いてきて、キス、をした。「ガゼル様はわたしに好意を持っているのですか」と、思ったことをそのまま口に出すと、ガゼル様は先程見せた頬よりも何倍も濃くピンクに染まる。

「そうかもね。」

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