ノイズ | ナノ


「何はともあれ見逃してもらった。早く、シャボンディ諸島に向かうぞ、ナマエ」
「……うん」


出来るだけ、普通を装いたかった。まさか、昔の事を何も思いだせないなんて思いたくも、なかった。認めたくない。あたしはいつから記憶があったのだろう。何であの島に言ったんだろう。誰かに手を引かれてあの島に言ったのは覚えている。その誰かが何をいったのか覚えてない。村長は眉に皺をよせてあたしを引き取ってくれたのは、覚えている。それが何歳だったかさえ覚えて、いない


「それじゃあナマエ、また会おう」


ヨウが消えた。ローさんが動かないあたしを無理矢理手を引いてひっぱってくれるが、頭に巨大な石がのった様に体が重い。「ナマエ?」顔をあげると、ローさんは驚いた顔をしていた。ローさんが、あたしの頬に伝っている水を拭う。「何で泣く」あたしだって、今泣いてるのかさえ理解していない。


「お前はおれのクルーだ」





「な、何なんだ!」
「うるせェな…海賊だ。金目のものがなかったら酒をもらう」


あたしはローさんが皆からお酒を取っているのをただ見ているだけだった。ローさんは海賊、民間人に嫌われても別に構わない。ずんずんと家に入っていって、お酒を取る。持てる数は少ないだろうに。
「行くぞ」大きくて高そうなお酒を一本持って家を出た。海軍が追いかけてくる様子は今のところない。「船まで案内しろよ、ナマエ」頷いてローさんの手を握った。暖かい。

少しだけ、何かを思い出せそうだ