ノイズ | ナノ


死ぬ恐怖とはこの事だ。短い睨み合いをするローさんと海軍のおじさん、そして逃げ道になるルートを必死に捜すあたし。海軍のおじさんが一歩を踏み出す。


「ナマエ!!」


違う、逃げ道が見つからないから、動けない。目くらましをしても逃げられる確率は少ない、それに相手に隙が全然見えない。「おじさん聞いてもいいかな」ローさんはあたしを不思議な目で見た。海軍のおじさんはあたしをチラリと見たあと「どーぞォ」と顔に似合うような口調で言った。


「おじさん能力者、かな?どんな能力?名前は?」
「ピカピカの実っていっねェ〜、簡単に言えば光人間な訳でェ」
「シャドー」


地面が暗くなると海軍のおじさんの周りに上下左右に壁ができ、おじさんを閉じ込める。
光には影だ。これでしばらくの間は出れないだろう。「スモーク」一応煙を撒き散らした。見張りの海軍がいない、多分あたし達の事を報告しに言ったのだろう。それにしても、おじさんはなんなんだろうか。ローさんやあたしよりも強い、ただこれしか言えない。ローさんと走る。とにかくおじさんに見つからないような場所まで走った。


「ナマエ、海に船あるか?」
「ズーム…あ、2隻ぐらいある。マリンって…」
「海軍の船だ。おれ達の船は」


辺りを見回す。こっちもギリギリで見ているから、捜すのに手間がかかる。いきなり頭がなにかに包まれながら押さえ込まれた。体温でわかる、ローさんだ。ローさんの心臓の音がリアルに聞こえてくる、速い。海軍のおじさんかな。あたしも心臓がうつ音が速くなる。「海軍大将、黄猿だ」静かにローさんはあたしの耳元で言った。黄猿…おじさんの名前は黄猿、


「……行ったか…?」
「もう周りに誰も…あ!ローさん船!」
「おれ達のか?」
「うん!」
「よし、じゃあ早めに酒でも奪って船に行くぞ。もたもたしてなれねェからな」

「なーに勝手な事いってんのォ〜?」


無意識で、一瞬だった。「ヨウ」頭の中で勝手にわたしは叫んだ。黄猿が蹴りを出すと同時に、あたし達の前にあの島であった白い狼、ヨウがその蹴りを受け止めた。これにはローさんも黄猿も、あたしも驚く。あたしのシールドにヒビを入れた蹴りを受け止めるなんて、考えられなかった


「…ナマエ、久し振り」
「……あ…お久し振り」


黄猿がヨウを睨んだ。そして緩い顔になり、黄猿はあたし達に背を向ける。


「ミョウジ・ナマエ、」
「…え?」


あたしはまだ黄猿に名前を言ってない。チラリと黄猿があたしを見て「海賊になってるとはねェ」「海軍の人間だったんだよねェ〜」え?まさか、あたしは、小さい頃からあの島にいた。海軍にいた訳、ないじゃないか。ローさんかあたしを抱きかかえるように「逃げるぞ」と耳打ちをした。


「その能力は海軍が君に与えた力なんだよねェ〜よく使いこなせたもんだ。でもその能力を海賊になって使うとはねェ、わっしも思ってなかったよォ〜」


そう黄猿は言って、海軍の基地に静かに向かった。ローさんの腕の力は緩んでいない。ヨウが「もう終わりか」と名残惜しそうにあたしの頬に顔をなすりつけて、大きな舌で舐めた。

あたしは、あたしは海軍にいるべき人間だったんだろうか。あたしはいつ頃あの島にいたんだろうか、何も、思いだせない。


「ナマエ、」


ローさんがあたしの名前を呼ぶ。何も、思いだせなかった。