森の中を怖々と歩いて行くと、とてもおかしな光景が目に入った。時計が一つの三角柱に一つずつあり、見える二つの時計の針は2を指して止まっている。更には人も止まっている。 ローさんは眉を潜めて辺りをキョロキョロと見渡した。 「何してるの?」 「宿を探して店主にどういう事が聞く。」 「宿なんて見当たらないけど。でもあの喫茶店なんて怪しい感じするけど。あたしの今までの経歴でああいうのが…」 「あの島基準にすんな」 パシ、と軽く叩かれ、あたしが指した喫茶店へと入って行く。それを追うように店に入ると、もうガヤガヤとローさんの名前が囁かれていた。あ、あいつなんかお金持ってそう。近づこうとすると後ろからニュッとローさんの手が伸びてきて、あたしの髪を引っ張った。ちぎれる、ちぎれそう 渋々席に座った。 「コーヒー。ナマエはどうする。」 「痛いってば」 「さっき思い切り顔面に精神的傷を負わされたからな。これぐらいの仕返しは、」 「はいはい。カフェオレとこの街の情報を」 コーヒーを作る手を置いた店主、「マスターだ」煙草を口に加えまたコーヒーを作り出した。名前を教えてくれた、ここの情報を教えてくれるかもしれない!一人浮かれ上がってると、「あいつ、ミョウジナマエじゃないか?」振り返ると合意の声がたくさん聞こえてきて、何故か顔が熱くなるのをローさんが見てきた。なんでローさんは平気なんだろう。恥ずかしくないのかな?苦手ではないんだろうな 「ここはゼロ地区。あの街の真ん中にある時計台は、8時、1時、6時、11時に一旦イチ地区とニ地区の時間が止まる。」 ローさんは思わず情けない声を出してた。これにはあたしも「はあ?」と喧嘩を売るような声を出してしまう。気づけばローさんのコーヒーは出来上がっていて、もう少しであたしのも出来上がる。気分と思考を落ち着かせる為に机に俯せになってみたが、まったくマスターの言っている意味がわからない。ローさんもコーヒーを飲んで「ここはどこだ?」マスターが吸っていた煙草を灰皿に押し潰すと、歳老いた特有の威厳がありそうな目にあたしは立ちろいだ。なんであたしを睨むんだ! 「ここはソウドク島ってんだ。」 「やっぱり島か。」 「海になにひとつ海賊船は見えなかったが……ああジュエリーちゃんだな…」 「ジュエリー?」 「巨大タコの名前だよ」 思わず「うげっ」と言ってしまった。マスターはかっかっかと笑ってカフェオレをあたしの目の前に置くとそりゃあ災難だったなあと人事にように言う。まあ人事なんだろうけどさ。マスターはあの巨大タコを知っているんだろう。聞いてみようかな?「あの!」後ろから言わんばかり大きな声が耳に入ったので振り向くと、ローさんに首を前に戻された。 「関わんな。面倒になるのはなるべく避けたいんだ」 「…はいはい。人助けするときはちゃっかりするくせに」 「なんか言ったか?」 「いいえなにも」 また大きな声であの!と叫ぶ人がいる。ローさんが振り返り「うるせえよ」と叫ぶ人に言うと、マスターが叫んだ人の名前を呼んだ 「ムーアンちゃん、どうした?」 「私、ゼロ地区に住もうと思って…。ゼロ地区なら時間も正常に動くでしょう?」 「やめときな。ゼロ地区は海賊がたくさんいるんだ。一般人は住めないよ」 しゅんとした声でマスターにお礼を言った。ムーアンと呼ばれた子は渋々店を出ようと後ろを振り返った途端ドスンと鈍い音がし、シビレをきらし振り返ってみると、ムーアン、だろう多分。大柄の男にぶつかって尻餅をついていた。ムーアンを見てみると、メガネとそばかすがある、あまり目立ちそうもない顔立ちだが、とても元気がありそうだ。ムーアンは叫んでローさんに飛びついた。 「おっ、おい!」 「ローさんから離れなさい!この、」 「おいトラファルガー。そいつを離せ。売春の売り物として…」 「売春?やめときなよ。こんなパッとしない子。」 「なんですってー!あなたの方がパッとしないわよ!私の方が背が高いし綺麗だし、この人と釣り合うわ!」 はあ?そんなわけあるか!そう叫ぼうとしたら、先にローさんの体が動いていた。バタリ、またまたハッキリと聞こえる効果音を出してムーアンは床に倒れた。ローさんの長い脚が少しだけ前に出ているのをみると、ムーアンを蹴ったのがわかる。ローさんが立ち上がってあたしの髪の毛をまた引っ張った。それに比例か、大柄の男は無理矢理ムーアンを立たせてあたし達を押しのけ、外に出て行った。かわいそうだ。まだあたしと同じぐらいなのに 「助けないぞ、おれは」 髪を掴んでいた腕を離し、帽子を整えた。あたしも、ボロクソ言われた怒りがあるので助けようなんて思わない。するとマスターが店から出て来て、金の入った袋をあたしに渡す。まさか、と思いマスターの顔を見ると、そのまさかの答えが聞こえてきた。 「ムーアンちゃんを助けてほしい」 ローさんは頭を抱えてあたしに「お前の仕事だ。行け」だるそうにあたしを見てくれる。あたしだって本当は行きたくないですよ、小さく呟いて金をローさんに渡す「スピード」一瞬にして大柄の男の目の前に出た。ジャンプして蹴りをいれてやると、ガードをがっちりされ、その太い手であたしの足首が掴まれた。やばい、そう判断し男の額に指をやる。 「デ、」 「ぐえ!」 突然男の力が緩んだ。ローさんがその腕で男の首を締めていた。あたしは地面に落ち、ムーアンを引っ張っていた手も緩む。そういえばローさんのいつも持っている刀がないじゃないか。手を挙げ、「ランス!」と叫ぶと光の槍が男に次々と刺さっていった。 倒れていたムーアンの無事を確認して見てみるとそこにはムーアンがいない。逃げたか、 「…離れろ」 「なによさっき私助けてくれたくせに…!」 「いやあれはお前じゃなくてナマエを、」 「何かお礼を…そうだわ!私の宿にきてちょうだいな!料理も宿代もタダにしてあげるわ!」 「…何してるの」 ローさんが困ったような顔であたしに助けを求めた。思わず眉間にシワが寄ってしまう。ローさんとムーアンを離すと、ムーアンがローさんに向かって「名前を教えて下さらない?」と目からハートを出しそうな勢いでローさんにまた抱きつこうとしたのを防止すると、ムーアンはハッと笑ってふふふと不気味に笑う。 「あなたローさんのご友人?それじゃあ宿に泊まってもいいわよ!」 「殺していいかなあ。それにご友人じゃなくてクルーだよ!」 ニヤリとローさんが笑ってあたしの頭に手を乗せて乱暴に撫でた。「ローだ」ムーアンは花が咲くような笑顔で「ローね!」と、「いきなり呼び捨てなんて礼儀がなってない」とあたしが言えば、ふふんて鼻を鳴らして宿の場所を案内していく。右手を握ってそのままグーで殴れたらどんなに気持ちがいいか。 「あ、でも私イチ地区の人間なの。だから宿は料理の時ぐらいにしかいけないんだけど…なるべくそっちに行くわ、ロー!待っててね」 「なんでゼロ地区に宿を?イチ地区でやればいいだろう」 「ワケありなのよ」 「さっ!ここよ!」立派というか、ボロというか、宿と言っていいのだろうか。外装はとてもオシャレだ。でも肝心の部屋がなさそうだ。部屋一個が二個あればいい方だろうな。ローさんがひくひくて口をあけてムーアンに「ここの部屋の数は」と聞くと、顔を何故か赤くして「ちゃんと二つよ!」ローさんの腕を引いた。 なんか、ムカつくのはあたしだけなんだろうな ◇ |