「ふうん。お姉さんはナマエっていうんだ」 バレリーニ・アロイスがあたしに手を差し出した。それを払いのけると「困ったな。謝りたいのに」とあたしの手を無理やり握った。 「!」 「さあ立って」 「いっ…」 がし、とローさんがアロイスの手首を力強く握っていた。アロイスがローさんを睨むとアロイスが仕方ないようにあたしから手を離した。 何故か、アロイスがあたしの肩に触った途端痛みが尋常ではなかった。骨が砕けるように、大きな石の下敷きになるように、痛かった。息がままならない。ローさんはあたしに「船に帰るぞ」と耳打ちする。こくんと頷くと、アロイスがあたしの首元に銃を突き付けてくる。 「行かせないよ、ナマエ」 「おれとやり合うか?」 「いいね。トラファルガー・ロー」 「さっきの話を聞いたらユースタス屋に殴り倒されたらしいが…」 ローさんは見た目全然細いのに、アロイスの胸ぐらを掴んで「おれにも殴り倒されたいか」といつもより低い声のトーンでアロイスに言い放つ。アロイスが考えたような顔をした後、唾を吐くように笑って、「シャボンディ諸島で会おう」と言った。 「シャボンディ諸島か…おれも行こうと思ってたところだ」 「それまでに賞金をあげておくよ。それに…ナマエも賞金首行きになるだろうね」 アロイスがあたしを見ると、口パクで「またね」と言った。ローさんはアロイスを離して、あたしの手を引いた。またローさんの船に乗ることになってしまった。このままここにいてもいいのだが、 「あ、おばさん!」 海軍の下っ端が顔中痣だらけになっている。ここの島に住民に殴られ蹴られされたのだろう。おばさんがあたしに「ありがとう」と頭を下げた。あたしも軽く頭を下げるとローさんが引っ張って、なんの言葉を交わすことなく、別れた。 * 船が止まっている。大体のクルーはもう船に乗っているらしい。まだ体の痛みは引かない。 「ナマエ。船に乗る前に、聞きたい事がある」 「え?」 「なぜうずくまった?」 別に、言ってもいい。でも言えば心配されることは目に見えている。言わなくても、どうもしないだろう。あたしはクルーじゃないんだから。あたしは余計な心配なんてされたくないのだ。 「この船に乗る以上、隠し事はなし、と決めている。」 「あたしはクルーじゃないです。別にこの島に残ったっていい」 「それならおれの船に乗ったらどうだ」 わきから声が聞こえ、そっちへ首と視線を動かすと、腕を組んだキッドがいた。ローさんがあたしをまた引っ張り、ローさんの後ろへと移動させる。キッドが笑って「どうだナマエ」と、ローさんとあたしに近付いた。 ◇ |