暗い路地裏を抜けて少しばかり善人と見える人達の賑わいが増してきた所、男の子の家に着いた。「お母さん。強い人連れてきたよ」ドアを開ければ男の子なの母親と見られる女の人がソファでぐったりとしていた。 「え?ああ…遅いじゃないレオ」 レオと呼ばれた男の子は少し慌てた様子で謝罪をする。レオの母親は大きなため息を吐いて適当に座っていいわ、と言った。不思議な親と子供だ。特異な雰囲気があるような感じだし、きっとローさんもそれは感じとってはいるだろう 「堕ろしたいらしいな」 「ええそうよ。早く堕ろして頂戴」 「お母さん、お茶の用意するね」 そそくさとレオはお茶の用意をし始める。ローさんは空いている小さなソファに座り、レオの母親をじいっと見つめている。途端ローさんは笑って「生まれるにも何も、ねぇなこりゃあ」と言った。 「未熟児で生まれるどころか流産になるかもな。あんたタバコを吸うだろ?でも 1番の理由は、」 「だから堕ろせと言っているの。お腹にいる人間を殺して」 この母親はお腹にいる赤ん坊を人間よばわり、した。 たしかに赤ん坊、赤ちゃんは一人の人間だ。だけど、何も自分のお腹にいる子供なのだから…、 「まあ…色々事情を聞いてから考える。」 「事情なんて、何もないわ」 「どうだか。ナマエ、ガキのところに行ってこの部屋に入れないようにしてこい」 「…アーイ」 あたしまだクルーじゃないからね 「レーオ君」 「お母さん、喜んでくれるかな?」 「え?あ…きっと喜んでるよ」 「褒められるかなあ」 「多分…」 へへ、と初めてレオの純粋な笑顔を見た。コップには黒い液体、コーヒーが揺れている。レオは熱さを確認する為にコップを触る「あつっ、」レオが反射的に手を離したコップはどうにか無事割らずにはすんだが、液体は辺りに少し飛び散った。 「大丈夫?火傷は…」 「きみ、お姉ちゃん名前なんていうの」 「ナマエだよ。」 レオはニターと笑ってあたしの名前を連発してきた。なんなんだこの子、頭やられてるのかな、と真剣に思ってしまう。きっと、嬉しいのだろうか。 バチン、ガタンとリビングから音がしたのでレオを置いてリビングを見た。 「ローさん?」 へたりと座り込んでるレオ母親 「堕ろす、今からだ」 「えっ!?またまた急に」 「ナマエ、タオルをたくさん用意してくれ。おいガキにも手伝わせろ。あと、」 テキパキと指示を出す。レオの母親の頬は赤く腫れていた。「どうせ堕ろすんだ…、別に丁寧にやらなくてもいいよな?」ローさんがレオの母親に言う。「ええ」下を向いたままレオの母親は言った。 「これぐらいでいいかな?」 「……ああ。ナマエ、血は苦手か?」 「…べ、別に、…ローさん大丈夫?」 堕ろす、言葉を換えれば中絶。酒場のおじさん達に教わった。こんなこと教わる前に計算できる脳みそを作っておけばよかった。でも中絶は子供をお腹の中で殺す、とだけしか知らない。やり方なんて、知らない。 ローさんは何を思っているのか、少し顔が青ざめてる気がする。緊張してるのかな? 「出産にも立ち寄ったことないのに、それで初めての手術で中絶なんて、最悪だ」 「どうやってやるの?」 「……気持ち悪くなるぞ。それに道具がない。近くに医者いない、」 「じゃあ探してそこでやればいいのに」 「簡単に言うな。もうぎりぎりの状態なんだ。これ以上待てないから仕方ないだろ」 レオの母親はベットに移った。レオは母親の後姿を見て、笑っていた。 「お母さん喜ぶかな」 「…え?」 「おなかの赤ちゃん死んだら、お母さんきっと笑うよね」 ◇ |