寒い。雪が降っている。寒い。
風に舞い、気ままに落ちてくる雪は、私に季節感を与えてくれる数少ないものだ。

寒い。さすがに雪が舞い込んでくることはないが、いくら堅牢と言っても古い。隙間風が身にしみる。

アズカバンにはもう慣れた。
私が正気を保っていられるのは、他でもない、妄執のなせる技だ。

私は、無実だ。

新聞をもらった。
視察に来るやつらは私が正気なのにいちいち驚いて、くれと頼めば新聞をくれる。
日付を見て――12月25日。
ああ、クリスマスなのか。

何て遠い響き。事実、アズカバンに入ってから思い出したのはこれが初めてだ。

最後に祝ったのは、……彼女と一緒だったか。

二人でテーブルを囲んでいつもより豪勢な食事。
二人掛けのソファで見たクリスマスツリー。
明るく優しい彼女の声。
指先で触れた彼女の柔らかな頬。
この腕で抱きしめた柔らかな身体。
瑞々しい唇も、滑らかな肌も、潤んだ瞳も。

全て、思い出した。覚えている。

私の全てだった、愛しい、愛しい彼女。

これを感じ取っても、吸魂鬼たちはこの感情を食らうことなどできない。

なぜならこれは――
過ぎ去ってしまった、今となっては哀しすぎる記憶なのだから。
もう、どれだけ手を伸ばしても、届かない。

いつの間にか、涙が頬を伝っていた。
体温と同じで温かいはずのそれは、冬の空気に触れて瞬時に冷たくなった。


End.


哀しいシリウス。
クリスマスっぽいものを書こうとして、どうやったらこれが出てくるんだ。
私の中でシリウスはあんまり「日常」が想像できません。波乱万丈に生きて散った人だからかもしれませんが。幸福の絶頂か、不幸のどん底か、です。もう年の瀬ですね。よいお年を!


2010.12.30

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