るひのできごと


「ナマエ?ここにおったんか。」

放課後の教室。みんなもう部活に行ったり帰ったりしたから私は教室に1人。
課題に手間取って。気がついたら教室には誰もいなくて。

「侑士っ!迎えに来てくれたの!?……あの……ちょっと手伝って…?」
「何の課題や?」

そう言ってあなたは私の前の机の椅子に腰を下ろす。
「数学…もう、訳わかんないよ…侑士、得意でしょ?」
私は解らないところをシャーペンの先でつついた。


「数列?これは、………」
どんなに解りやすくて丁寧な解説でも何だかよく理解できなくて。
私は私に説明してくれてるあなたに見とれてた。

好きになったときから変わらず大好きなあなたに、見とれないなんてことがある?
ノートに視線を落として伏せ気味の瞳とか、
参考書のページを開いてる指とか、
私に説明してくれてる声とか。

あなたの何もかもが私を魅了するんだよ、侑士。


「…。ナマエ?」
私はあなたが呼ぶ声にはっとした。
驚いて目を上げると、そこにはあなたの瞳があって。
きょとんとしてる私を見て、あなたは少し笑った。

「聞いとったか?」
「う…ごめんっ」
「本当に数学苦手なんやな。」
「侑士ができすぎるんだよ…まあ、そのおかげで私は教えてもらえるんだけど。」
「聞いてへんかったのに?」
「ごめんって!」

そう言ったらあなたは少し声を出して笑った。
「数学なんか、適当にやっとったら必要なことは全部問題の中から見つかるんやで?」
「はあ……それができないから苦労してるのよ?…ってか侑士も適当とか言うんだ。」
「何やそら…」
あなたは苦笑して。
「だって、侑士はすごくきっちりしてる印象だったんだもの。」
「そんなことあらへんよ。俺かてナマエは人の話は集中してきっちり聞くヤツや思ててんけど。」
「もう!謝ったでしょー?」

侑士、口調は真面目だけど目が笑ってる。

知らないでしょ、あなたのそんな仕草にさえ、私は当てられちゃうんだよ?


「…侑士」
「何や?」
「呼んだだけー」

「ナマエ」
「呼んだだけって言うんでしょ。」
「言わへんよ。」
「じゃ、何?」

「…課題、ええんか?」
「ちょっ…ひどい!せっかく忘れかけてたのに!」
「忘れたらあかんやろ。てか数学くらい、俺がなんぼでも教えたるよ。」

そう言って真っすぐに私の目を見つめてくるあなたは、世界中のどんな映画スターよりもかっこよくて。

…なんて、そんな安っぽいたとえしかできない私。

「ありがと」
私はそうとしか言えない。


「じゃ、真面目に聞くから教えて」

『下校時刻になりました。校舎内に残っている生徒は、電気を消し、窓の鍵をかけ、速やかに下校しましょう。繰り返します。……』

なんてタイミング…
せっかくやる気になったのに。

「しゃーないな。ナマエ、帰ろか。」
「うん。ごめんね、遅くまで付き合わ………侑士」

鞄を取ろうとしてふと顔を横に向けたら、私は光に圧倒された。

「ん?」
「あれ…窓、見て…」
「…夕焼けか…」
「凄く、きれい…」

きれいなんて言葉なんかじゃ表せない。
なんで今まで気付かなかったんだろう。

教室も、私も、あなたも、街も、みんな朱色に染まって…

私は無意識に、あなたが机に置いてた手に私の手を重ねていた。


あまりに朱くて

あまりに壮大で

あまりに美しくて

あまりに私の胸を締め付けるようで。

どうしよう、何だか、私…

「泣きそう…」

囁くように呟いた。

私の手の下のあなたの手が、するりと抜けた。

で、

あなたは机越しに私の肩を抱いた。

「別に、泣いてもええよ。」

とても、とても優しいあなたの眼差し。

「ありがと」


End.


頭のいい彼氏と感傷的な彼女。
数学は私も大の苦手だったんですが、数学に限らず、何かに天才的な人ってあんまりアドバイスにならないこと言うことがありますよね。テニスサークルの先輩で、めちゃくちゃボレーがうまい、それこそ手首の柔らかさが半端ない(そしてめんどくさがりな)人がいたんですが、ボレーが苦手な私が「ボレーってどうやるんですか」って聞いたら、「うーん……まあ、ボレーなんて適当にやっときゃできるよ。」って言われました。まんま使ってますが。スポーツにしろ勉強にしろ、本当にできる人は無意識にできちゃうんでしょうね。
夕焼けは、最近よく夕日とかに感動しちゃうので使ってみました。前半部分何も関係ない!


2010.12.13
2013.9.14:修正

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