cross


――この雪国にあって、あなたのその炎のような赤い髪はよく目立ちます――

なんて言ったのは何年前のことだろう。


あの頃の私はまだ、ほんの小娘だったわ――


「――クロス…」
吹雪の中、開いた扉の前に立っていたのはいつ見ても変わることのない赤い髪の男。


私が、愛した男。

「久しぶりだな」


ああ、
なぜこの人はこんなにも変わらないのだろう。
「入って。寒いでしょう。」

彼の目に映る私の家は、今も彼の記憶の通りなのだろうか。

「来るなら、知らせてくれればよかったのに。」
「知らせていれば、何か変わっていたか?」
「…変わったところを直していたかもしれないわ。」

過ぎ去った時間は、戻らないけれど。

「会いたかった。」
「本当に?」
「信じないのか?」
「信じるわ。当たり前よ。」

あなたを信じなければ、私に信じるものなどないのだから。

だから、たとえ嘘であってもあなたを信じるの。


「綺麗な髪ね…」
いつも同じ事を言うのは、少しでも彼を繋ぎ止めておきたいからなの?

多分彼もそれを解っている。
だから何も言わないのね。

――今まで、どれだけの女がこんな風に彼の髪に触れてきたのだろう――

その赤い髪に手を触れながら、寂しく思ったのは昔のこと。


今は違うわ。
今は知っている。
確かに彼はここにいないときには私のことなんて忘れているかもしれない。

それでも。
彼は、ここにいる間は、――それがどんなに短い間でも、私を愛してくれる。

それが真実なのだから。
たった1つの、真実なのだから。

だから私は――

「ナマエ、お前…、佳い女になったな」

そう、私は変わったでしょう。
あなたの言葉に、振る舞いに、一々反応していたのは昔の私。

今の私は、
あなたの全てを受け入れて見せるわ。

決して本心を見せてくれなくても、
その愛がほんの小さなものだったとしても。


そしていつの日か、あなたの中の私の存在が少しでも大きくなってくれたら。
本当に、"佳い"女としての私があなたの中に刻まれたら。

それで私は十分。


私の躯を抱いているあなたの腕に少し力が入ったのは、あなたが私のそんな思いを感じ取ってくれたから?



――次に私とあなたの道が交差する時、あなたは私にどんな言葉をくれるのでしょうね――


End.


「クロス元帥の愛人A」のお話。突発的なクロス元帥夢。
「大人の」女になりたいです。ただ美人なだけじゃなく、知性の光り輝くような、立派な人、「佳い女」になりたいです。


2010.12.13:修正
2013.9.15:修正

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