い夏


暑い、ほんまに暑い。
珍しく部活が午前だけじゃったけど、部活終わったら暑すぎて何もやる気起きんかってさっさと家に帰ってきた。
暑い。
暑いって言うたらますます暑うなるからあんまり言うなっちゅう奴もおるけど、暑いもんは暑いんじゃ、これが言わずにおれるか。

玄関のドアを開けたら、見慣れん靴があった。
姉貴が新しゅう買ったんかとも思うたけど、どうも新品と違うし。客でもおるんか。
靴脱ぎながらそんなこと考えとったら、居間のドアが開いた。クーラーの冷気が流れて来て気持ちええ。

「…何でおるんじゃ」
冷気と一緒に居間から出て来た奴を見ての俺の第一声。
「あ、雅治!お帰りーお邪魔してるよ」
「じゃからナマエ、何でおるん?」
「立海大付属高校のオープンスクール。…そんな暑いとこにいないで部屋入りなよ。」
どうやら玄関のドアが開く音がしたから見に来たらしい。手にはアイス持っとる。
「ああ…そういや明日じゃったな。」
「あ…っちょ、何すんの!」
通り過ぎざまに、ナマエの持っとったアイスをひょいと取り上げてやった。今までこの炎天下で走り回っとったんじゃ、ずっとクーラー効いた部屋におったナマエより、俺の方がアイス食うにふさわしいじゃろ。あー、部屋ん中涼しいのう。
「まだ冷凍庫に入ってるから!新しいの食べなよ!」
「……そうじゃな。オカンは?」
ちょっと考えてからナマエにアイスを返した。汗洗い流してから食うた方が美味いじゃろうし。
「買い物行ってる。だから今私しかいないんだ。」
「ふうん。シャワー浴びてくる。…覗くんじゃなかよ。」
「は、ないない。」
ナマエは目を細めて曖昧に笑った。小学校以来に見たそれがやけに懐かしかった。

ぬるめの湯、温かめの水って言うた方がええんじゃろうか、それを浴びながら頭に浮かんできたのはやっぱしナマエ。
俺とあいつは幼馴染で、小学校の頃、ちゅうか俺がこっちに来るまでは毎日のようにつるんで遊んどった。
…それにしてもあいつ、わざわざオープンスクールに来るっちゅうことは本気で立海目指しとるんか。

シャワー浴び終えて髪の毛拭きながら、まあ上の服はええか、なんて思う。だって暑いし。家じゃし。
「なあナマエ、アイスどこ?」
居間に入ると、直接肌に冷気が当たって火照った体には丁度ええ。
「えっとねー、お弁当用のから揚げの下…って、ま、さはる…!」
冷凍庫の中から目当てのアイスを探し出して振り向くと、ナマエが赤い顔して俺を見とった。
「ん?何じゃ?」
「ちょ、何で上着てないの…!」
「暑いけえ。」
「いや、うん、いやいやそうだけど!」
「何、ナマエちゃんどきどきしたん?俺の上裸で?」
「そりゃそうですよ、健全な女子ですからね!」
「……」
あれ、何じゃこれ。何か妙な気分になった。一瞬。

「はあ、びっくりした。」
いつの間にかナマエの顔色は戻っとる。早くも慣れたらしい。
ナマエはソファに座ると読みかけだったマンガを手に取った。ほんで俺は、その隣に座ってアイスの蓋を開ける。

「…なあ、何で立海なん?」
「え?」
しばらく無言じゃったから、とりあえず話しかけてみた。
「じゃから、なんでわざわざ立海に来ようとしとるん?」
「うーん、立海ってスポーツ強いじゃん。私実は地元ではソフトボールの強化選手なんだよ。それに、…あ、まあこれはいいや。」
「何。気になるじゃろ。」
「いや大したことじゃないって。」
そう言うたナマエが、すごく不自然に顔をそむけるもんじゃから。
「そんな風にされたら余計気になる。」
そむけられたナマエの顔を覗き込んでみた。

「ちょ、わ…っ」
いきなり至近距離に俺の顔が現れたからか、ナマエが驚いた声を上げる。
それに、また顔が赤うなった。

「雅治、っ近い、よ!」
「……」
あれ、また。
何なんじゃろ、これ。
答えを探して、ナマエを見つめた。

ほんで、もっかいしっかりとナマエと目が合った時、衝動的にナマエを抱きしめた。

「何……っ」
「んー?わからん。けど何かこうしとうなった。」
ほんまに、ようわからんのじゃけど、顔を赤らめとるナマエを見とったら無性に、うん、抱きしめとうなったんじゃ。
「ま、さ、はる、っ」
「何なんじゃろな。顔赤うしとるお前さんが可愛くて、あーなんじゃこれ、もしかして好、っ、」

…今俺何言うた。
ハッと気づいたらめちゃくちゃ顔が熱うなった。
可愛えとか、言うた?ナマエに?それに、しかも…好き、かも、とか言いかけたんか…?

ちゅうか、好き、て何なん?無意識に言いそうになったってことは、そういうことなんか?
「…っ」
「雅治…」
「…すまんナマエ、何か俺ようわからん。」
ようわからんのに、何かすごく熱い。どきどきする。こんなん知らん。
じゃけど、苦しいのに、嫌じゃない。
「雅、治、」
…ナマエの声がだんだん小そうなっとって、今はもう蚊の鳴くような声じゃ。…って。ナマエ、こんなことして絶対引いとるよな。嫌がられとったらっていう考えが頭をよぎった途端、心臓握りつぶされるんじゃないかってぐらいぞわっとした。
恐る恐るちょっと体を離してナマエの様子を窺う。
そしたら、顔を真っ赤にして泣きそうになっとるナマエがそこにおった。

そんで。
「やだ、…離れ、ない、で」
かすかな、ほとんど声にもなってもないような声じゃったけど、確かに聞こえた。
「ナマエ、」
「嫌、とかじゃ、ない、からっ」
そう言うと、ナマエはあろうことか俺の肩んとこに顔をうずめた。
「あのね、さっき言いかけた立海に行きたい理由……ま、雅治が、いるからなんだよ、」

「ずっと、雅治が引っ越してからも、ずっと好き、だったよ、」

、俺の中で何かが晴れた気がした。

「俺も、好き。ナマエが好きじゃ。」
直感でわかる。これが、好きってことなんじゃな。
ああどうしよ、嬉しすぎる。

アイスがほとんど溶けとるけど、そんなんどうでもええ。
今まで知らんかった、心地良い熱さじゃ。


End.


方言はイケメンが使うからこそかっこいいのだと気付きました。最初はヒロインも仁王語的なもの(とりあえず広島・岡山っぽい方言)を使って書いていたんですが、そうするとあまりにも…あまりにも田舎臭くなってしまったので…
大丈夫なのは関西弁くらいですね。
ほのぼの・中学生らしく !を目指してたのですが、いつの間にか仁王くんの色気も全開になりつつしかしなんだかものすごく純情な仁王くんになりました。そんなあなたが好きです。


2011.09.06

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