ルーローズ


あいつはいい友達。何でも話せる仲。

きっとお前はそう思っとる。

「幸村にね、告られた。」

思わず、口に運びかけていたグラスが止まる。
「……それで。」
「うん、付き合うことにした。」
「そりゃ、よかったな。おめでとうさん。」

お前は気付いていない。
お前の今の言葉で、俺がどれだけ動揺したか。

何でも話せる仲過ぎて、所詮そんな仲。

しばらく経って、久しぶりに二人で飲んだ。
別に何かを期待してたとか、そんなんじゃない。

「で?どうなんじゃ、幸村とは。」
「相変わらず、まあうまくやってるよ。」

特に何も変わらんお前じゃけど、一つ変わっとった。

「幸村」じゃのうて、「精市」って呼んどった。

「そういう仁王は?何かないの?」

そんな、全然裏のない顔で聞かんでくれ。

「何もないぜよ。」
まさか、言えるわけもないじゃろ。

お前が好きじゃ、なんて。

「ええ?仁王かっこいいのに。…あ、前言ってた子はどうなったの?」
「ああ…気になるのがおるってやつか。」
「そうそう。確か、同じ学部で結構仲いいとか言ってなかったっけ?」

そいつのことでお前に言うてないことが一つあったんじゃ。
そいつの名前はミョウジナマエ。お前。

「あー、あったなそんなん。何か向こうに男ができたみたいじゃ。」
幸村精市、っていう男がな。

「あらー…、で?諦めるの?」
「そうじゃな。もう決心はできとる。あの男には正直敵わんしな。」
諦める決心は、じゃけど。

「え、男、知り合い?じゃあ私も知ってる?よね?」

ああもう、やめてくれ。
「…幸村精市、じゃ。」

「好き、じゃ。…った。」
「え?」
「…お前のことぜよ、」
無理やり過去形にするくらいの自制心はあるみたいじゃ。
けど、自制心があったなら、こんなこと言うとらん。

「…じゃから、ナマエ、お前さんのこと、好きじゃった。すまん。」
「…っ、何、で、謝るの。」
「言うべきじゃないってことは解っとるから。」

だめじゃ。
力入れんと、声が震える。

「……ありがとう、ね。それに、ごめん。仁王の気も知らないで私。」
「何でそんなこと言うんじゃ。彼氏おるのにこんな…」

「私のこと、好きって言ってくれるのは、…やっぱりうれしいから。」
「……っ」

手の震えが、止められん。
「こんなこと、言うはずじゃなかったんじゃ…」
「お前らの仲を、壊したいわけじゃない。幸村のことだって、純粋に尊敬しとる。ほんまに、すまん。」

「仁王…ありがとう。ごめん。」
「謝るのは、俺の方じゃ…すまん。ナマエ、すまん。」
これが最初で最後、お前をナマエって呼ぶのは。
すまん、ナマエ。すまん、幸村。
言うてしもうて、すまん。

「もう、謝らないで…、…心配しなくても、精市とは別れる気、ないから。私、そのくらいじゃ、ブレないから。」
「当たり前じゃ。俺のせいでとか、絶対になって欲しゅうない。言うたじゃろ、壊したくないって。」
それでこそ、ナマエじゃ。

「ありがとう。」
「これ以上とか、何も望まんから…これからも、友達でおってくれるか…?」

「…もちろんだよ、仁王。」

お前には、別れてほしくない。本当に。
そっちの方がお前にとって幸せなんじゃ。

何も、望まんから。
お前を手に入れたいとか、もう思わんようにするから。な。


End.


書いててすごく切ない気分になりました。タイトルは不可能のイメージを込めて。
まっすぐで、ちょっとやそっとじゃブレないヒロインを好きになってしまった仁王。だからこそ、幸村と別れる気ないって言われたときに、ものすごく切ない気持になったと共にちょっと安心というか、ああそれでこそ、って思って嬉しかったのも事実。そんな仁王さん。
どっちかがどっちかのことを好きな状態で友達でいいから、っていうのは大抵破綻する気がするんですが、お互いに相手の覚悟というか決心が分かってるので当分の間は大丈夫だと思います。
あ、大学生設定です。
その辺の飲み屋で友達同士だし普通に飲んでたっていう設定。
次は恋人同士の幸せな仁王を書きたいです。ふと気づけばまだ恋人設定で仁王夢は書いてないですからね !
そういえば仁王の方言がなぜか書きやすいです。多分合ってはないんですが、岡山とか広島の方言に一番近い形で書けるので。


2011.3.1

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