を待つ


「仁王。」

「何じゃお前さんか、ミョウジ。」

2月の終わり。屋上はまだ寒い。
「まだ寒いじゃん。見誤った?」
「そんなこと言うて、ここに来たってことはお前さんもそうなんじゃろ。」

仁王のお気に入りの場所は学校に3つある。
北側の階段、南側の空き教室、屋上。

夏、仁王は北側の階段にいる。
日が一番当たらず、校内でも涼しい場所だ。
加えてあまり人もやってこない。

冬、仁王は南側の空き教室にいる。
日が一番当たるうえに、ボイラー室の隣だからかなり暖かい場所だ。
加えてあまり人もやってこない。

そして春と秋、仁王は屋上にいる。
日差しが強い日は給水塔の影にいるけど、すがすがしくて一番過ごしやすい場所だ。
加えて人もあまりやってこない。

さらに言えば、今仁王は日なたで、でも太陽に背を向けて少しばかり寒そうに背を丸めて座っていた。
「あの教室は少し暑かったけんの」
「ああ、それでこっちに来てみたけど寒かった、と。」

季節ごとに仁王は居場所を変える。
屋上にいる、ということはだいぶ暖かくなってきたということだ。

「うわ、手、冷た。」
私は所在なさげに置かれていた仁王の手をつかむ。
冷たさにびっくりした。…と言っても、仁王の手が冷たいのは今に始まったことじゃない。というか基本的に私の方が暖かい。

「まだここにいる?中、入らないの?」
「ま、座りんしゃい。」
座っていた仁王は、答えたような答えになってないような返事をすると、私に取られていた手で逆に私の手首をつかみ返すとぐいっと引っ張った。
バランスを崩した私はとっさに踏みとどまって、だけど大人しく仁王の隣に座った。

「あー、寒。」
低い声でそうつぶやくと仁王は私の方に寄り添ってくる。

「教室は暑いけど、屋上はまだ寒いな。隣に人がおるくらいが丁度ええ。」
「そうだね。」

空を見上げると、冬らしい灰色に、少しだけ春らしい空色が混じっている。

気付けば繋がれたままの手。
仁王のその手の冷たさが、少しだけさっきよりも暖かくなった日差しの中で心地よかった。

こうやって二人で春を待つのも悪くない。


End.


初仁王夢。ほのぼのしてみました。名前、 1回しか出てこなくてすみません。
友達以上恋人未満、ってやつです。お互いに、恋かどうかは分からないけど心地よさは抱いていて、ああこういうのいいなあ、こいつといると気負わなくていいやーとかうっすら(あんまり認識はしてないけど)思ってます。


2011.02.24

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