束――彼女は。


「ねえ、人間ってさ、」

「理想を追い求めんようになったらそこで終いやて思うんや。」

そうして私達の付き合いは始まった。

その時の約束。
どっちが言い出したかなんて覚えてない。どっちでもいい。
それほど、私たちの思考は似ていた。

――今は、あなたが好き。一番だよ。でも、これからも理想は追い続ける。
あなたより好きな人が、理想の人ができたら、その時は…――

――ええよ、ほんまに、考えること似とるなあ。俺かてそうやで。今はナマエが一番やけど。――

うらみっこなし。
そんな約束。

歪んでいるなんて思わない。別れるときのための保険だとか、そんな考えもなかった。
だって、本当に好きだったもの。

あの時は、侑士、あなたが一番の理想だった。

偽りなんかじゃないよ。

「もっと好きな人ができたの。」

ごめんね。

「そうか」

驚いた顔を一瞬で隠して、どうにか笑おうとしている侑士の顔を、私はずっと忘れないだろうなって思った。

「幸せに、なりや」

それだけ言って、侑士は行ってしまった。

嫌いになったわけじゃない。
ただ、もっと好きな人ができた。

あの日の約束。


End.

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