束――彼は。

「ねえ、人間ってさ、」

「理想を追い求めんようになったらそこで終いやて思うんや。」

そうして俺らの付き合いは始まった。

そん時の約束。
どっちが言い出したかなんて覚えてへんし、どっちでも構へん。
そんぐらい、俺らの思考は似とったんや。

――今は、あなたが好き。一番だよ。でも、これからも理想は追い続ける。
あなたより好きな人が、理想の人ができたら、その時は…――

――ええよ、ほんまに、考えること似とるなあ。俺かてそうやで。今はナマエが一番やけど。――

うらみっこなし。
そんな約束をした。

歪んどるなんて思うてへん。別れる時のための保険やとか、そんな考えもあらへんかった。

ほんまに好きやったからや。

あの時は、ナマエ、自分が一番の理想やったしナマエにとっての俺もそうやった。こんな日が来るやなんて露ほども予想してへんかったんや。

「もっと好きな人ができたの。」

薄々感づいてはおった。
けど、いざ聞くとなるとこないに衝撃的やったんか。

俺の理想は、ナマエ。自分だけや。
理想を追い求めればそれだけ、そう思うようになった。

自分でもあほちゃうかて思うぐらい、どうしようもなくナマエが好きになっとった。

だからこそ、あの約束を俺は守らなあかん。

俺の勝手な想いを、あいつに押しつけたらあかん。

「そうか」

何とか、驚きは隠せたと思う。
けど、ああ、俺今ひどい顔しとんやろなあ…

「幸せに、なりや」

それだけ言うた。何とか絞り出したっちゅう方が正しいかもしれん。

逃げるように背を向けた。

これ以上あいつの顔見とったら、もう何もかんも壊れてしまいそうやったんや。

悲しいんか、何なんか、わからへん。
虚ろな、けど何かで一杯な俺の中。

別れる、てこないに苦しいもんなんか。

嫌われたわけやない。
ただ、あいつにもっと好きな人ができたんや。

あの日の約束。

鼻がつんとする。
目の奥が熱い。

何なん、これ。

立ち止まると同時に、視界がぼやけた。

もう、ぐちゃぐちゃや。

…好きや。好きやナマエ。
ほんまに、好き、やから。


End.


どうやら私は定期的に悲恋を書かなきゃ気が済まないらしいです。
彼女目線と侑士目線の2つで一つです。
補足しておきますと、彼女はもちろん侑士くんもちゃんと納得してます。
理想を追い求ることをやめたら終わりだっていう自分の考え方はやっぱり自身の中にあるので、それを否定する(自分を否定する)ようなことはできないんです。
思考が似てるから彼女の考えもわかるし…
好きになるタイミングは同じだった。けど、彼女が自分の理想により近い人に出会ってしまった、それだけなんです。
それだけなんだけど、それだけのことだってわかってるからなおさらつらい。つらくてつらくてたまらないんです。
補足長くて申し訳ない…
基本的に私は書くときにイメージソングとかは考えないんですが、今回は白石くんの『エピローグ』がイメージです。ていうか結構そのまんま…?ってことに書いてから気付いた。


2011.2.18

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